第72章 織姫の願い(第53章続編SS/三成)
七夕から一夜明けた今日。
空は晴れ晴れと青く、気持ちの良いお天気になりました。
実は昨夜、全く眠れなかったのですが
そんなことも忘れるような清々しさです。
「さっきから、にやけてるけど」
「はい?そうでしょうか?」
「…嫌な感じ」
隣で仕事をする家康様は
時折私に冷たい視線を投げかけています。
にやけていると言われましても…
自覚は無いのですが。
「ふふふ」
「だから其れ、止めてくれない」
「あら、すみません」
「……何なの」
家康様はいささかご機嫌が斜めのようです。
こんなにいいお天気だというのに
一体どうされたのでしょうか?
ガラッ———。
「三成は居るか?」
「光秀様。何かご用ですか?」
普段と同じように飄々とやって来た光秀様。
相変わらずの男前ですね。
「迦羅が書庫の整理をしているのだ。お前も手伝ってやってはくれぬか」
「迦羅様が?」
確か私が読み漁った書物がたくさん
そこら中に散らばっている筈ですが…
「いや、忙しいのならば俺が行くが」
「いいえ私が参りましょう」
片付けも出来ない男だと
迦羅様に思われてしまいますからね。
それでは格好がつきません。
足早に書庫へと向かうと
床に座り込んだ迦羅様が書物を広げていました。
「迦羅様?」
私が近付くことにも気付かない様子です。
何か面白いお話でも見つけたのでしょうか。
更に近付いて隣へ腰を下ろすと
ようやく迦羅様が私に気が付きました。
「あ、三成くん」
「何を読んでいたのですか?」
「んー、読めてはいないんだけど、何となく目に入って」
迦羅様の差し出す書物を見れば
其処に挿絵が入っていました。
寄り添うひと組の男女でしょうか。
「きっと此れは恋物語なんだろうなぁ」
「私が読んで差し上げましょうか?」
「え、いいの?」
そのように輝くような目を向けられたのでは
私の声が上ずってしまいますよ。
私は普段、戦術書しか読みませんが
たまにはこうして他の物を読むのもいいですね。
誰の為でも無く
迦羅様の為に読むのですから。
「では、読みますよ」
「うん」