第71章 織姫の願い(第53章続編SS/秀吉)
「ほら、美味いぞ」
点てた茶を出しながら
迦羅の願い事を思い出していた。
〝秀吉さんと釣り合うくらい、大人の女性になれますように〟
短冊にはそう書いてあった。
大人の女性……そうなったら俺の世話焼きなんか必要が無くなる。
「やっぱり秀吉さんのお茶が一番だね」
迦羅、お前本当は嫌気がさしてるのか?
鬱陶しいと思ってるのか?
「秀吉さん?聞いてる?」
「え?ああ、悪い悪い」
「悩み事なら聞いてあげるよ?」
珍しく形勢が逆転した立場——。
だが、小首を傾げて俺を見る迦羅が
今日はやけに可愛く見えるんだ。
「悩みか…そうだな」
「うん、何??」
目を輝かせて身を乗り出して来る迦羅。
其れに抗おうとは思わなかった。
「好きな女が居るとして、その女は俺の世話焼きを嫌がるだろうか?」
好きな女、と言う言葉を聞いて
迦羅は少し目の輝きを失くした。
「嫌がらないと思うよ。それが秀吉さんだもの」
「そうか」
「…でも、あんまり世話焼かれると、自分が子供なのかなって思うかも知れない」
成る程な。
お前の短冊の意味がわかったよ。
俺は別に子供扱いしてる訳じゃないんだ。
「大人になりたいって言うその女に言ってやりたいんだ。お前の世話を焼けることが、俺の幸せなんだってな」
「…秀吉さん、それって……」
「それじゃ駄目か?迦羅」
頬を赤く染め上げて俺を見る迦羅の顔。
堪らなく愛しくて、柔らかな髪を梳く。
「…駄目じゃないよ。そんな風に言われたら、絶対嬉しいもん」
「決まりだな。俺は一生お前の世話焼くからな」
「うん」
迦羅の目の縁からほろりと涙が落ちる。
「何で泣くんだよ」
「だって、嬉しくって…」
「お前の涙も綺麗だが、あまり見たくないな」
顔を近付け唇で其れを拭ってやる。
目の前に艶やかな唇が見えたら
誘われるようにして其処へも唇を触れる。
「ん……っ」
世話焼きは俺の特権なんだ。
相手がお前なら尚更
こうする口実だとしても——。
今まで以上になるからな?
覚悟しとけよ、迦羅。
「…短冊見たでしょ?」
「どうだったかな」
「酷いよ秀吉さん!」
「嫌いになったか?」
「…大好き」
完