第70章 織姫の願い(第53章続編SS/政宗)
……眠れねぇな。
外が白み始めた明け方。
ひとつも眠気がやって来ないまま
朝を迎えようとしていた。
「迦羅の奴、あんなこと書きやがって…」
昨日は七夕。
別に特別なもんじゃねぇが、迦羅の提案で短冊なんか書いたんだよな。
〝政宗にこの気持ちを伝えられますように〟
あの文字を見てからと言うもの
頭の中で其ればかりが回ってやがる。
ったく…此の気持ちってどの気持ちだよ。
天井を見つめながら、悶々としていくばかりの心に俺は困り果てていた。
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「政宗ー。居ないのー?」
「……ん…」
勢いのある耳慣れた声に目を覚ました。
どうやら明け方を過ぎてから眠りに就いてしまったらしい。
「迦羅か?」
ガラッ——
襖を開ける音と共に迦羅が顔を覗かせた。
「あ、居たんだ。ごめん、起こしちゃった?」
「いや、いいんだ」
今日が休みで助かったな。
そうでなければ完全に遅刻もいいとこだ。
「で、どうしたんだ?」
褥から出ながら用件を聞けば
少しばかりもじもじと言いづらそうな様子で、迦羅は顔を伏せた。
朝からそんな可愛い顔してんなよな。
「俺に会いたくなったのか?」
「え、いや……そう言う訳じゃ」
否定すんのかよ。
「あのね、政宗が今日お休みだって聞いたから、料理を教えて貰えないかなって…」
「は?料理?」
おいおい、俺に料理を習いたいなんて
そう言うの反則だろ?
女が料理を始める時なんて
大概好きな男に食わせてやりたいって時だろ。
……お前も其の類いか。
「別に駄目だったらいいんだけど…!」
「いいぜ。着替えるから待ってろよ」
「あ、うん!」
隣の部屋へ入り襖を閉めると
何だか知らねぇけど、ザワザワと胸の辺りが妙に騒ぎ始まった——。
こんなの初めてだな。
料理を教えてくれってだけだろ…何なんだよ。
良くわからない緊張なのか高揚なのか
そんなものが現れ始めた顔を引き締め
迦羅の待つ部屋に戻った。
お前の言う俺への気持ちってやつを
確かめるにはいい機会な訳か—。