第69章 織姫の願い(第53章続編SS/家康)
昨日の七夕。
迦羅と仲良くなりたいなんて
そんな願い事をしてしまった。
願い事書けって言うから書いただけだけど
…何か今更恥ずかしくなって来た。
それに———。
昨日宴会の後で庭に出た時に見た最後の短冊。
風に翻ったそれを見て
皆が一斉に俺を睨んだんだ。
〝もっと家康と仲良くしたい〟
まさか迦羅がそんなこと書いてるなんて、思いもしなかったのに。
俺が素っ気ないから…
本当にただ仲良くしたいだけかも知れない。
だけど、違う意味であって欲しいとも思う。
昨日の其れを思い出して、じんわりと響く胸の高鳴りを感じながら廊下を歩いていると、迦羅を見かけた。
……どうかしたのかな?
見れば左手の人さし指を押さえながら
少し顔をしかめて歩いている。
「怪我でもしたの?」
声を掛けると迦羅は振り向き
何故か咄嗟に手を後ろに隠す。
「ううん!何でもないよ!」
「いいから手、見せて」
「あ……うん…」
差し出された手は血が滲み
人さし指に切り傷があった。
「台所でお手伝いしてたら切っちゃって…」
はぁ。
何でこう危なっかしいのかな。
「少しだから平気だよ」
「薬塗ってあげるから、部屋に行ってて」
「え、いいよ別に…」
「良くない」
ジロッと目を見ると、観念したように頷いて部屋に向かって行く。
それを見届けてから
俺も薬を取りに仕事部屋に向かう。
迦羅がしょっちゅう怪我するお陰で
軟膏の類は仕事部屋に常備していた。
この間も転んで擦り傷作ってたし。
「入るよ」
軟膏を手に迦羅の部屋に行くと
畏まったように座っていた。
その向かいに腰を下ろして怪我した手を取ると、申し訳無さそうに声を出される。
「いつもごめんね」
「そう思うなら、もう少し気を付けたら」
「……うん」
別に責めてる訳じゃないのに
何でこんな言い方しか出来ないんだろう。
清潔な布で傷口を拭き、軟膏を塗る。
…細くて綺麗な指なのに、こんな傷なんか。
手当の為に触れているだけなのに
何となく、変な感じ—。