第67章 天邪鬼な子守唄 −終−(徳川家康)
静かな夜には、蟲の声だけが響く。
私はいつも通り家康の腕の中に居た。
あったかくて落ち着く、私の一番の居場所。
閉じ込めてくれる腕も
髪を梳いてくれる手も
口付けをくれる唇も
家康の全部が好きで好きで堪らない。
「ねぇ家康」
「何?」
「ずっと、側に居てもいいよね?」
「…それ、聞く意味あるの?」
こんな素っ気ない返事だって、もう慣れたもの。
家康の答えを知ってて、聞くんだから。
「駄目って、言ったらどうするの?」
「やだ!って言い返すよ」
「ふっ。じゃあやっぱり、聞く意味ないでしょ」
ふふっ、確かにそうだよね。
家康が駄目だなんて言わないことも知ってる。
私も、駄目だなんて言わせてあげない。
家康の手が、私の背中をポンポンと叩く。
いつか私が家康を寝かしつけようとした様に。
だんだん瞼が重くなって来て
家康の胸に頬を寄せる。
そこから聞こえるのは心地の良い鼓動—。
「おやすみ、迦羅」
「うん。おやすみ…家康」
家康の腕の中では決して嫌な夢は見ないの。
いつも綺麗で優しい夢ばかり。
それにこうしてると、眠れない日は無い。
きっとそれは……
家康の胸から聞こえて来る鼓動が
私のとっておきの、子守唄だからかな。
「…いい夢、見てよね」
頭のてっぺんに家康が唇を落とすと同時に
私はもう、夢の入り口まで辿り着いていた—。
完