第60章 一夜の妖花(武田信玄/甘々)
私から視線を逸らすこと無く
信玄様の指先が、首筋を弄ぶ。
「……っ!!」
僅かな刺激にも関わらずピクリと身体が反応してしまう。
微笑みを崩さない信玄様は、そこから進むでもなく止めるでもなく、私を見つめ続けた。
「…意地悪、してるんですかっ……」
「どうだろうね?」
「信玄様…」
この手がもどかしくて堪らなくて
でも私から誘うなんて…そんなこと…
思わず信玄様の胸元をギュッと掴んだら、上半身を起こした信玄様がじっと目を覗き込んだ。
「意地悪だったかな?本当に君に誘われてしまったら、きっと俺は正気じゃいられないだろうね」
「…それでも、いいです」
「ん?」
「今日は、離さないで下さい」
信玄様みたいな口説き文句はとても言えないから、私にはこれが精一杯のお誘い…。
「お願い…信玄様」
もう可笑しなことは言わないから。
だから今日だけは私のこのお願いを、聞いて。
胸元から手を離し、私がされたように信玄様の首筋を撫でる。
一瞬肩を竦めた信玄様の頬は、ほんの少しだけ…赤くなった。
「君は困った子だ。俺の余裕を、こんなにも簡単に奪ってしまうなんてね」
首筋に当てがわれた私の手首を掴むと
そのまま布団へと縫い留める。
見下ろされる目がとても優しく、艶っぽく、妖艶に人を惑わせる花のような…
「君はそのままで十分美しい」
「あっ……」
唇と唇が触れそうなところまで近付いた信玄様。
そのもどかしい距離のまま、甘い吐息がかかる。
「君の望み通り、今夜は離さないことにしよう。美しい君のすべてを、俺に見せて欲しい」
「…はい」
唇が重なり、どこまでも甘やかすような、優しいけど…深くて苦しい程の口付けー。
「…んっ………っ、ふ……」
吐息と一緒に乱れていく着物と
その隙間から入り込む手と、絡む足。
「はぁ…っ、信玄…様…」
「迦羅。君はいつだって美しくて可愛らしい、俺だけの愛しい天女だ」
照れくさくなるくらいの信玄様の笑顔と
恥ずかしいくらいの口説き文句。
やっぱり私は信玄様には追いつけない。
私の初めてのお誘いの夜は
どうなってもいいくらいに甘やかされて…
私と信玄様とを、疲れ果てた夢の先でまで繋いでくれた。
完