第52章 彩−irodori−(石田三成/甘々)
耳に響く虫の声が賑やかになる初夏。
安土城の庭では、政宗と家康が珍しく手合わせをしている。
家康のほうが嫌々が付き合わされてるって感じだけどね。
縁側にお茶の用意をした私は
そんな二人の様子を微笑ましく眺めていた。
「この天気よりも、お二人のほうが熱いですね」
「あ、三成くん。ふふっ、本当にそうだよね」
少し汗ばむような陽気の中、いつもと同じ涼しげな笑顔の三成くんがやって来て、隣に腰を下ろす。
すぐ側に感じる温もりを意識すると、心地の良い緊張が走る。
「迦羅様は夏は好きですか?」
「うん、好きだよ」
「私も好きなんです。寒い冬も好きですけどね」
「夏と言えばお祭りが好きだなぁ。あの賑やかな雰囲気、それだけで楽しくなっちゃうの」
「確かにお祭りは良いですね」
三成くんとそんな話をしていると、手合わせをしながらも政宗がこちらに声を掛けた。
「そこのお前ら、お熱いもんだな!」
「本当、暑苦しい」
「家康、余所見してると首が飛ぶぞ」
「…余計なお世話。木刀で首は飛びませんから」
それから暫くすると手合わせを止めた二人がこちらへ戻って来る。
渡した手拭いで額の汗を拭き、少し冷めたお茶を一気に飲み干す。
「しかしよー三成、お前良くそんな涼しい顔してられんな?」
「はい?私の顔ですか?」
「鈍感なだけでしょ」
「ふふふっ…」
「おや、迦羅様、笑いましたね」
「ご、ごめん……ふふっ」
何だか可笑しくて微笑み合う私たちを他所に、また二人は庭のほうへと足を向けた。
「熱くて敵わねぇよな」
「…勝手にさせておきましょう」
そんな小言が聞こえたような
聞こえないような。