第51章 情恋歌(明智光秀/裏甘)
ー翌朝
僅かに漏れてくる陽の光。
「ん……」
寝返りを打つと、隣には光秀さんは居なかった。
「あれ…光秀さん?」
もう仕事に出掛けちゃったのかな。
目覚めたら居ないなんて…寂しいな。
布団に残る光秀さんの残り香が余計に寂しさを感じさせた。
サーッ。
隣の部屋の襖が開き、着替えを済ませた光秀さんが出て来た。
「起きたか」
「…光秀さんっ!」
「何だ、そんな声を出して」
「起きたら居なかったので…」
「俺が居ないと寂しいのか?」
「はい。とっても寂しかったです」
少しだけ拗ねてみせると、私の前にしゃがみ込んだ光秀さんが額に口付けを落とす。
「お前に黙って居なくなったりはしない」
「…本当ですか?」
「ああ、約束しよう」
「じゃあ、約束の…」
顔を上げて口付けをせがむ。
やれやれと言った顔をしながらも、それに応えてくれる光秀さん。
「んん……っ」
頭の後ろを押さえられ、触れるだけじゃなく、深い口付けー。
やがて唇を離すと困ったように薄笑っていた。
「これ以上は仕事に行けなくなる」
「ふふっ、そうですね」
「悪いが俺は一足先に出るぞ。ゆっくり支度して来るといい」
「…はい。いってらっしゃい」
「ああ」
ゆらりと光秀さんが出て行った後、布団を畳み身支度を整える。
ふと文机に目をやると、文が一通置いてあった。
「ん?」
表には私の名前が書かれている。
開いてみると、光秀さんのものだろう流暢な文字が記されていた。
…が、流れるような文字は、最早文字なのかどうかもわからないくらいに流暢で、読むことが出来ない。
「折角の文なのに……」
光秀さんからだと言うのに、文字が読めないことに少し悲しくなった。
やっぱりもっともっと勉強しなくちゃ。
いつか必ずこの文を読めるようになろうと思い、文を仕舞おうとした。
だけど……
書かれた最後の一行だけは読むことが出来た。
きっと私にも読めるように書いてくれたのだろうその一行。
私の胸にはまた温かいものが広がり、そして高鳴る鼓動が響いた。
『俺はお前を愛している』
完