第48章 恋の忍びに御用心(猿飛佐助/甘め)
安土城の天井裏。
そこはもう俺の庭みたいなものなんだ。
現代からやって来た迦羅さんと言う友人に逢うため、どれだけ通ったことか。
万が一追っ手がついた時の為に色々と仕掛けも施してあるしね。
そして物音も立てずに、いつもの部屋の上に辿り着いた。
板に耳を当て下の様子を伺うと、迦羅さん以外の人が居る気配は無い。
「迦羅さん」
小声で呼んでみると、すぐに返事はあった。
「佐助くん?どうぞ」
招き入れる声を確認して、外した天井板の間からするりと下へ飛び降りる。
華麗な着地。…さすが、俺。
「久しぶりだね迦羅さん」
「うん。変わりなかった?」
「お陰様でね。元気そうで安心したよ」
最初は不安そうにしていた迦羅さんも、随分とこの時代の生活に慣れたようで本当に安心している。
安土城に居る迦羅さんとは、こうしてたまにしか逢えないけれど、俺の戦国ライフには欠かせないものになっていた。
「それで、今日はどうしたの?」
「え?」
そうだ。逢いに来た口実を考えていなかった。
特に用事も持たずに女性の部屋を訪ねる訳にはいかないからね。
「近くまで来たからね、顔が見たくなったんだ」
「ふふ、そうなの?」
不思議そうにも微笑む迦羅さんを見ていると、何故だかとても気持ちが安らぐんだ。
近くまで来たなんて嘘なんだ。
無性に迦羅さんに逢いたくなって、ふらっと春日山を出て来てしまったんだからね。
「あ、お茶入れるね」
「お構いなく。誰か来たら大変だ」
「でもせっかく来てくれたのに…」
その優しさだけで俺は十分満たされるよ。
迦羅さんの顔を見られただけで、春日山から飛んで来た甲斐があったと言うもの。
とは言え、そう毎日来る訳にもいかないからね。次に逢う口実を作らなくちゃ。
「実は明日、また幸村が行商で城下に来るんだ」
「え、そうなの?」
「幸村も迦羅さんに逢いたがっていたから、良かったら来てくれると嬉しい」
「わかった、明日行くね!」
「ああ、楽しみにしてる」
長居は出来ないからね、今日はもう行くよ。
短い逢瀬に満足した俺は、また天井裏にするりと上がって、名残惜しい気持ちのまま安土城を後にした。