第5章 甘美な罠(徳川家康/甘々)
翌朝ー。
布団の中で目覚めた俺は、今日やってくる迦羅とどう過ごそうか考えていた。
正直なところ、仕事を詰めていたせいで身体は疲れ、ずっしりと重い。だけど、長いこと放っておいた愛しい人の寂しさを知っているから…身体はどうでも良かった。
俺も、迦羅に逢えない日々が寂しかったし。
ふと、頭の中に少し意地悪な考えが浮かんだ。
「…今日は、甘えてみよう…」
そろそろと部屋を出て、御殿の女中に今日のことを伝える。
「あまり調子が良くないけど、世話は焼かなくていい。今日は、迦羅が来ると思うから」
「そう言うことでしたら、余計なことは致しません」
そう言って何故か嬉しそうに頷いた。
再び部屋に戻り、布団に潜る。
瞼が重くなって…いつの間にか眠りについてしまった。
ーん…?
頬に触れる柔らかな感触に目が覚めた。
まだ重い瞼を持ち上げると、心配そうな顔で俺の頬に手を添える迦羅がそこに居た。
「あ、ごめん…起こしちゃった?」
申し訳なさそうに迦羅は小声で話す。
「来たなら起こしてくれればいいのに」
迦羅に寝顔を見られていたかと思うと、照れくさくなった。
「女中さんに聞いたよ。調子良くないって」
「うん、そう」
わざと気怠そうに言ってみる。
熱はないのかと迦羅は俺の額に手を当てる。
「良かった、熱はないみたいだね」
仮病なんだから、あるわけないでしょ。
でも、触れられた額も頬も、何だか熱っぽい気がする。
「本当は疲れてるんでしょう?私のことはいいから、今日はちゃんと休んで」
そう言って布団を首元まで掛け直すと、立ち上がろうとする。
咄嗟に迦羅の手を掴んで、自分の身体を少し持ち上げた。
迦羅が帰ってしまったら、甘えられなくなるー。
「そばに居てよ」
するりと素直な気持ちが口から滑り出た。
すると迦羅は頬を赤らめ、また腰を下ろす。
すぐに顔に出るんだから。可愛くて仕方がない。
「じゃあ此処に居るから、眠って?」
促されて横になろうと思ったけど、それじゃ物足りない。
もっと甘えたい。持ち上げていた身体を迦羅に寄せ、その膝に頭を乗せる。
「…えっ、此処で寝るの?」
見上げると、真っ赤な顔をした迦羅と視線が合った。