第43章 雨のち晴れ(徳川家康/甘々)
季節は梅雨ー
時折晴れ間を見せる程度の空は
今日もどんよりと灰色に染まっていた。
雨が降りそうだけど、傘持って行ったのかな?
…おっちょこちょいだから、あの子。
城の廊下から雨雲の迫る空を眺め、先程お遣いに出掛けた迦羅のことを思う。
「まーた降ってきそうだな」
背後から現れた政宗さんが、同じく空模様を見て言った。
「あいつ、傘持って行ったのか?」
「さぁ」
「お前も相変わらず冷たい奴だな」
怪訝そうにまたかと言わんばかりに俺を見る。
…別に俺だって、冷たくしたい訳じゃない。
けど、勝手に口から出てくるんだ。
そんなこと言われなくたって、わかってる。
「さーて、俺が迎えに行ってやるか」
「いいです、別に」
「ははっ、ほんと素直じゃねーな」
迦羅を迎えに行くのなんか、俺だって出来る。
俺の役目だから、余計なこと、しないでよ。
っていうかわざとでしょ、政宗さん。
ザァァァー
本格的に降ってきたな…。
パシャッ、パシャッ。
歩く足元は濡れ、打ち付ける雨に傘が鳴る。
急に冷えてきたし、何処かで雨宿りしながら震えてるかも。
城下に架かる橋を渡ると
一軒の軒先にその姿は見えた。
心細そうな顔をして、大粒の雨が降ってくる空を見上げていた。
…迷子の子犬みたい。
鳴り響く雨音に掻き消された俺の足音は、迦羅の耳に届いていない。
「何、そんな顔して」
すぐ側まで行って声を掛けると、反応した迦羅がこちらを見て驚いた顔をする。
「あ、家康!」
俺を見て安心したのか、先程までの暗い顔が一瞬で吹き飛んでいた。
また、そんな可愛い顔して。
「何してるの」
「何って…。傘持たずに来ちゃって……」
「ちゃんと空模様見て出掛けなよね」
「あ、うん…」
「ほんと、あんたって世話が焼ける」
「…ごめんなさい」
晴れたばかりの顔がまた曇ってしまった。
そんな顔しないでよね。
俺が虐めてるみたいでしょ。
少しは慣れてくれたと思ったけど、やっぱり、まだ駄目みたい。
でも、迦羅ならわかってくれるでしょ?
俺が天邪鬼な性格だってこと。
どれだけ、素直じゃないかってこと。
だから、そんな顔しないでよ。