第38章 戦国狂想曲1幕①(信長ルート)
天主の縁に出てひとり酒を呑む。
今宵の月は雲に隠され、僅かな光を漏らすだけだった。
それが余計に寂しさを募らせる。
「迦羅…貴様の気持ち、か」
脳裏に浮かぶ迦羅は、いつもの笑顔だ。
俺が愛するものは、当然と俺を求めるものだと思っていた。
去って行くとすれば、追うこともなくそれを捨てるー。
だが迦羅はどうだ?
たとえこの俺を心底嫌っているとしても、何としてでも繋ぎ留めておこうとするだろう。
知らず知らずのうちに、育ち過ぎた貴様への愛。
最早俺自身、どうすることも出来ないのだ。
「…信長様」
襖の向こうから聞こえる声に、即座に反応する。
「迦羅か?入れ」
「はい」
襖を閉めた迦羅は、何か緊張しているのか足を止めたままでいる。
「近くへ来い」
自分の隣を叩いて、そこへ来るよう促すと、静かにやって来て腰を下ろした。
「遅くにすみません」
「構わぬ。何か話があるのだろう」
「…昼間の、お返事を」
急ぐことはないと言ったが、早く聞きたかったのも事実。
しかし、いざこうして迦羅が来てみれば、その口から出る言葉が少々恐ろしい。
俺ではない男の名が出て来たらどうする?
俺は素直にそれを受け入れるのか?
この女を諦めることなど、俺に出来るか?
珍しく後ろ向きな自問ばかりが飛び交う。
ふん…俺もいよいよだな。
「聞いて下さい、信長様」
「あ、ああ」
動揺するな。まだ聞いてもいないのだ。
「私は…信長様が好きでした」
「…過去形か」
「はい。今はもう、愛しているんです」
「そうか、ならば仕方が………何だと?」
「信長様が愛してくれるように、私も信長様を愛しています」
「ー!?」
良く澄んだ声が一直線に突き刺さる。
掛かっていた雲が行き過ぎ、天の月は姿を現す。
その淡い光が迦羅を一層美しく照らし出した。
「だから…ずっと側に置いて下さい」
向けられた微笑みに、俺の頬が熱を帯びるのがわかる。
返事などとっくに決まっている。
貴様を、何処へも行かせる気はない。
「あの、何とか言って下さい…」
「言葉では足りぬな」
迦羅の片腕を引き、勢いで倒れかかる身体を抱きしめたー。