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【イケメン戦国】✿ 永遠の恋〜華〜 ✿

第31章 紺碧の涙・後編(上杉謙信/悲甘)


自由にならない身体
紡ぐことの出来ない言葉

まるで他人の心に同居しているような日々。


伊勢姫の真意もわからないまま、あの言葉通りに人質として差し出された先での暮らしを始めていた…。











手入れの行き届いた広い庭
池の畔にぽつりとしゃがみ、何を思うでもなくただ静かに佇む。

しばらくそうしていた時、吹き抜けた風の冷たさにふと顔を上げた。


池に架かる朱色の橋の上から、こちらを見ている誰かー





色素の薄い柔らかな髪
冷たさと憂いが混在したような表情
そして、色違いの瞳…


見間違いはしない。
この人は、まだ私の知らない頃の…謙信様。



ぞくりとするような視線に捕らわれて、この身体は逃げ出すように立ち上がった。

けどー

「何故、ここへ来た」

決して冷たさを持たない声が届き、踏み留まる。


「…国のためと聞いております」

「そうか」


たったそれだけを言うと、謙信様は城へと戻っていく。





この時、伊勢姫が何を思ったか私にはわからない…
でも私の胸はいっぱいだった。

謙信様の姿を目にして、声を聞いて、堪らなく寂しくなった。

私の知っている謙信様が
今どうしているのか、わからなくて…。










それから翌日も、その翌日も
庭に出ては、現れる謙信様と少ない言葉を交わした。

そうして過ぎていく時の中で、僅かにずつ、距離が縮まっていくのが感じられた。


私ではなく、伊勢姫と、謙信様のー。






鏡台の鏡に映るのは、今では見慣れた伊勢姫の姿。
悲しみが流れこんで来たあの日とは違って
髪を梳く顔も、その心も、穏やかさが見てとれる。



互いを想い合う、二人の恋。


複雑に絡まっていたはずの私の心でさえ…
嫉妬や悲しみではない。

まるで伊勢姫とひとつになって、謙信様を思っているみたいに。




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