第29章 照れ屋な彼と林檎飴(真田幸村/甘め)
陽が沈み、至るところの軒先に下げられた提灯は、色とりどりに灯されていた。
暗い夜に幻想的な灯りが浮かび上がる。
「そう言えば、今日何も買ってないな」
「そうだね、忙しく見て回ったから」
「何か買ってやるよ」
「え、そんなのいいよ…」
「バーカ、何遠慮してんだよ」
どうしてもと言う幸村に引っ張られて、また通りを見て歩く。
そうして幸村にひとつ買ってもらい、通りの先の石段に二人で腰を下ろしていた。
「お前…もっと他になかったのかよ」
「これでいいの!」
何だか不満そうに見つめる幸村の視線の先には、私が持つ真っ赤な林檎飴ー。
「安い女だなー」
「ふふっ、そうだね」
「好きなのか?それ」
「うん。何となく幸村に似てるから」
「はぁ?」
上手く言えないけど
何かそう思うんだよね。
「どこが似てんだよ」
「んー…赤いとことか?」
「は?何だよその理由」
言ってる私も聞いてる幸村も、意味がわからなくて笑った。
こんな何でもないことでさえ、共有できることがすごく幸せ。
林檎飴を食べる私を、後ろに回った幸村が腕の中に閉じ込める。
背中に伝わってくる幸村の熱が、私の熱と化していく。
同時に、どちらのものかわからないような鼓動が加速していった。
あんまりドキドキして…唇から林檎飴が離せない。
すると、幸村の手が私の顎を捕らえ、振り向かせる。
「…幸村も食べたいの?」
「ん、俺はこれでいい」
ゆっくりと顔が近付いて、唇に甘い感触が触れる。
ほんの僅かにだけ唇を離した幸村。
もどかしい距離で吐息がかかる。
「俺とその飴、どっちが好き?」
「…知ってるくせに」
自分と林檎飴を比べるなんておかしいの。
ふっと微笑みあった私達はまた、お互いの甘い唇を重ねた。
どちらからともなく唇を求め合ううちに
もう…離れられなくなってしまった。
「今日は…帰らなくてもいいよな?」
額を突き合わせて問われれば、私は自然と頷いていた。
照れた幸村が見せる赤い顔。
林檎飴みたいに真っ赤で、甘くて…
食べ終えるまで時間がかかる林檎飴みたいに
長く、幸せな時間をくれる愛しい人ー。
完