第26章 夜の姫はご乱心!?①(信長ルート)
人肌が恋しくなる、か。
それは初耳だったな。
そんなことを俺に黙っていたとは。
隣に座る迦羅を見つめながら、今宵はどう抱いてやろうかと思考を巡らせていた。
だが、艶やかな着物を着崩した迦羅の姿を見た時から、実のところそればかりを考えていたのかもしれん。
俺の視線に気が付いたか、盃を傾け終えた迦羅がこちらを見る。
視線が絡まると、淡く染まった頬を緩ませ、微笑む。
「…綺麗だ」
そんな言葉がするりと唇から零れる。
嬉しそうに笑う姿が一際眩しく感じた。
「今日の信長様も、素敵ですね」
「晴れ着が気に入ったか?」
「着物ではなく、着ている信長様が…」
言いながら照れているのか、次第に小さくなる声。
熱を帯び濡れた目。
愛らしいにも程がある。
すると…
コトリ、と俺の肩に迦羅の頭が預けられる。
さすがに酔いがまわったか。
「おい」
声を掛けるも返事はない。
まさか眠ったのか?
…今宵は寝かせてやる気などないというのに。
だが、抜け出す口実にはなったか。
迦羅の身体を横抱きにし立ち上がると、皆の視線が一斉に集まるのがわかる。
「この通り酔い潰れている。貴様らは気の済むまで呑むといい」
それだけ言い、賑やかさを残す広間を後にした。
暗い廊下を天主まで歩いていく。
腕の中には温かな愛しい女の温もりが広がっている。
規則正しい寝息を立てる顔を覗き込むと、とても幸せそうな顔をしていた。
だがそれと同時に、
抱く迦羅の鼓動が、先程よりも早くなっていることに俺は気が付いている。
「困った女だ」
独り言を呟き、足早に天主へと入った。