第19章 蜜色の戦(上杉謙信/甘め)
「安土に行くだと?」
寝耳に水とはまさにこのことだ。
今しがた俺の腕の中で目覚めた迦羅は、唐突にそんなことを言い出したのだ。
「俺が、はいそうですかと言うと思うのか?」
極めて冷ややかに問う。
しかし迦羅も真剣そのものだ。
「そうは思いません」
「ではそんなことを言う必要はない」
これ以上おかしなことを言うな。
俺の手から離れて行くなどと、絶対に許すものか。
布団の中で、やり切れない思いを込めて迦羅を力一杯に抱き寄せる。はだけた着物の間から胸にかかる迦羅の吐息が、意図もせずに俺の熱を上げていった。
しかし、トンと俺の胸を押し返した迦羅は話を続ける。
「私が謙信様のもとへ来る時に、ひとつ条件があったことを覚えていますか?」
ああ、そんなこともあったな。
確かたまには安土にも顔を見せるようにと。
「あんなものは連中の勝手な言い分だ」
「それでも、約束は約束です」
簡単には引かぬか…。
「まさか、安土が恋しいなどと言うわけではあるまいな」
この俺を捨て置いても、連中に会いたいと言うのか。
「私が謙信様に出逢えたのも、すべてが安土に居たおかげです。謙信様にとっては、ただの戦の相手かもしれませんけど…」
納得はいかないが、言うことはわかる。
しかし、非常に腹立たしい。
迦羅が安土へ行けば、連中が舞い上がって喜ぶ姿が想像出来るからだ。
「…駄目でしたら、諦めます」
だが…ここで頑なに駄目だと言ったところで、それでは迦羅が悲しい思いをするに違いない。
不本意ではあるが、致し方ない…か。
「仕方あるまい。だが、油断するな」
「どういうことですか?」
「俺以外の男に籠絡されるなよ」
行かせる前に、何度でも俺のものだという印をつけておかねばならん。ぐるんと体勢を変え、迦羅の上に馬乗りになる。
性急に強引な口付けを与え、再び火照りを思い出した迦羅の柔らかな肌を晒していく。
外はすでに陽が昇っていたが、今はそれどころではない。
どんどん乱れていく迦羅の甘い吐息と声が、俺の我が儘を加速させていった。