第2章 棘のある病(徳川家康/微甘)
翌朝、軍議のため皆広間に集まっていた。
領地の動向や年貢の確認など、一通りの会議を終える。
皆が広間を後にするなか、政宗さんが俺の元へやってくる。
「昨日は悪かったな」
バツの悪そうな顔を向け、俺に謝る。
「何故政宗さんが謝るんですか」
恐らくは迦羅の帰りが遅くなったことを言ってる。
政宗さんはわざとらしく申し訳なさそうな顔をしてみせる。
そして、昨日政宗さんの御殿で迦羅とどんなやり取りがあったのかを包み隠さず話し始めたー。
聞いていくうちに、迦羅のことが頭の中を駆け巡った。
優しく微笑む顔、困った顔、潤んだ瞳、触れた時の温もり。
「迦羅は家康が好きだと言った。そして、お前の冷たい態度にどう接していいかわからない、と言った」
淡々と話す政宗さんはいつになく真面目な声だ。
「そんな奴は忘れて俺に乗り換えろと言ったんだが…」
今度は冗談めかしてそんな事を言う。
「そうはいかなかったよ」
政宗さんは残念そうに笑ってみせた。
迦羅があまりに真剣に家康への想いを相手に悩んでいるものだから、とことん聞いてやるうちに時間が過ぎてしまったとー。
するといつの間にか背後に現れた光秀さんが口を挟む。
「だから言ったろう?迦羅はお前を好いていると」
クックッと愉快そうに笑う顔が憎らしいと思うけれど、
迦羅の気持ちを知った俺の胸は、そんなものも構わないほどに熱をあげていた。
ぽぅっと頬が熱くなる感覚が襲い、政宗さんに頭を下げるとすかさず広間を出る。
こんな顔…見せられない。
廊下を歩き出すと、視界の淵に淡い色が映った。
色とりどりの花を咲かせる花壇と、それ以上に鮮やかな色を纏い、水遣りをしている、俺の愛しい人。
立ち止まり視線を向けていると、顔をあげた迦羅と目が合った。
迦羅は一瞬だけ、戸惑ったように目を伏せるけど、すぐに顔を上げて満面の笑みを浮かべた。
「おはよう、家康」
迷いなく俺の名を呼ぶ愛しい人。
あんたの気持ちも、俺の気持ちも、同じ所にあったんだ。
始まるのは、これからだけどねー。
完