第16章 お前だけに愛を囁く(明智光秀/甘め)
「…はい」
必死に涙を止めて顔を上げた迦羅が、俺の質問にそう答える。
「でも、私に惚れられた人は…災難なんですよね。私がこんなだから…面倒だから…」
そうじゃない。俺が言いたいのはー
言葉よりも先に、本能が動いた。
迦羅の柔らかな唇を奪った。
「何を、するんですかっ…」
「お前に惚れられた男は、俺の執念深い嫉妬を受けることになる。実に災難だろう?」
「…え?」
心底驚いたようだがそれが俺の本心なのだ。
ゆっくりと顔を近付け、また口付ける。やっと触れることが出来たお前に、我慢など出来るはずがない。
「んっ、…ぁ…」
「逃げないのか?」
口付けを繰り返しながら、合間に問う。
「もう、逃げられません…」
俺の背中をそっと抱くと、迦羅は笑った。
何と愛らしく、こんなにも温かい。
触れなければわからなかった温もりが、次々と身体を巡る。
「俺はお前に惚れてしまったようだ」
「奇遇ですね。私も光秀さんに、惚れてしまったようです」
抱き合った状態に少し気恥ずかしいのか、頬を桃色に染めた顔がほころんでいく。やっと手に入れたこの笑顔を、誰にも渡すものか。
「覚えているか?」
「何をです?」
「俺がどれだけ、意地悪なのかを」
ニヤリと笑みを浮かべて見せたあと、着物越しに背中に腰に、手を這わせながら色気立つ首筋に唇を落としていく。
「あっ…あぁ、んっ」
力の抜けた身体を受け止め、そのままゆっくりと畳へ押し倒す。
涙はすっかり乾いて、熱を帯びて艶めいた瞳が美しい。
少し乱れた着物の襟を暴く。
「俺の意地悪は、嫌いじゃないようだな」
「…はい」
「迦羅、愛している」
冬の日。
寒さを纏う夜なのに、甘い二人のまわりには、まるで春の陽射しがかかるようだった。
完