第16章 お前だけに愛を囁く(明智光秀/甘め)
目の前で迦羅の顔が一気に曇っていくのがわかる。
まずい言い方をしたか…。
まだ手にしたままの迦羅の指先から温もりが伝わってくる。
だが、その瞳は悲しみに色を変えていた。
この女がここへ来てから、無邪気な顔も、一所懸命な姿も、眩しい程だった。
からかえば顔を赤らめて恥ずかしがり、怒り、言葉を交わす。
そうしなければ、俺はこの女と接することが出来なかった。
「もう離して下さい」
そのままだった手を振り解き、逃げ出すように立ち上がった。
その瞬間、迦羅の目から雫が落ちるのを見たー。
迦羅が襖に手を掛ける直前で、俺は咄嗟にその身体を捕まえる。初めて腕の中に抱くその感触が、愛おしくて堪まらなかった。
「いや、離してっ!」
腕の中で抵抗する迦羅を、ますます力を込めて抱き締める。
その肩が小さく震えている。
泣いているのか…?
今までどんなにからかっても、泣かせたことはなかった。
それが今、俺は、泣かせているのか。
抵抗しなくなった身体を強引に自分のほうに向き直らせ、優しく抱く。流れ出る涙に俺の心も痛んだ。
「…また…からかってるんですか」
涙声で問われたが、素直な言葉がすぐには出てこない。
「もう、私に構わないで…」
拒絶するような迦羅の言葉に、チクリと針が刺さる。
「お前は、誰かに惚れているのか?」
先程も聞いた。俺には関係ないと言っていた。
だが、関係ならある。
俺はお前に、惚れているようだ。