第16章 お前だけに愛を囁く(明智光秀/甘め)
その日、夕暮れ時から行われていた軍議が長引き、武将たちはそのまま広間で夕餉を摂ることになった。
女中さんに混じり、広間へ膳を運んで行く。
「迦羅、お前もここでどうだ?」
秀吉さんが一緒にどうかと声をかけてくれたけれど、まだ軍議の途中だし邪魔は出来ない。
「いえ、私は遠慮させて下さい」
「そうか、じゃあまた今度な」
と秀吉さんは優しく微笑み、私は一礼して広間を後にする。
その時、光秀さんと一瞬目が合った。
いつものいやらしく浮かぶ笑みはなく、真っ直ぐに私を見ていた。
襖を閉めてから、あの目が気になって仕方がなかった。
でも、軍議の途中なんだし、何か難しい話をしていたに違いないと思って、私も台所へ戻る。
この日は台所番の女中さん達と、台所脇の畳場で夕餉を摂った。
城内の皆と少しずつ馴染んでいくのを感じるのが嬉しくて、こうした時間は大切なものになっている。
すると、話が次第に好きな男性のタイプにすり替わった。
いつの時代もこういうのがあるんだな、と笑っていると、
「ねぇ、迦羅様はやはり信長様が良いの?」
不意に話を振られ、答えに困った。
「確かに信長様はこの国の主だし、魅力的よね」
ひとりの女中さんが言う。
「私は秀吉様がいいわ!あの甘いお顔と優しさに敵う人なんて居ないわよー」
「でも、政宗様の男らしさと三成様の笑顔も素敵よねぇ」
結局は絞り切れないみたい。
まぁ、皆の言うことは私も同感なところがあるかな。
「そう言えば迦羅様って、よく光秀様にひどい目に合わされてるとか…」
心配そうにある女中さんが私を見た。
「ただからかわれてるんですよ。私の反応が面白いみたいで」
ひどい目に合わされてるって言うと大袈裟だからね。
「でも…」
また別の女中さんが顔を覗き込み、続けた。
「好きな女には意地悪したくなるって、言うわよね」
それを聞いた他の女中さん達が、ハッとしたように騒ぎ出した。
私は慌てて否定する。
「ま、まさか。本当に面白がってるだけで…」
「わからないじゃない、迦羅様みたいな美人を好きになっても何の不思議じゃないわ」
「性格は悪そうだけど、顔だけはいいわよね」
盛り上がっていく女中さん達を他所に、私の胸は何だか知らないけれど鼓動が早くなった。
光秀さんの意地悪にそんな意味なんて…あるわけないから。