第5章 暗黙のルール(マルコ)
夜の帳が支配する真夜中、立て込んでいた仕事がやっと片付き最後に船内の見回りで歩いていたマルコは、前を歩く”ある人物”を見つけて顔を顰めた。
またかよい…
溜息を一つ吐くとマルコはその人物に近付いた。
「ユナ」
呼ばれた少女は栗色の髪を揺らしながら振り返る。
『ん? どうしたのマルコ』
「どうしたじゃねェだろい、何回言ったら分かんだ…”その格好”で船内彷徨くな」
『えー、でも夜中だし良いじゃない』
「夜中でも起きてる奴らは割といるんだからちゃんとしろ、寧ろ夜中のが問題なんだよい」
『もうマルコは心配性ね、大丈夫よ』
呑気に笑うユナにマルコは頭が痛くなった。
ユナとこのやり取りをするのは何度目だろうか、もう数える事すらバカらしく思う程テンプレな会話になっている。
ユナは出逢った時から物事に無頓着だった…特に服には興味が無く、自身の服を数える程しか持っていない。
島につく度に買って来いと言うのだが買って帰って来た試しがないのだ。仲間と一緒に行かせた事は何回かあったが、結局自分のは買わず仲間の物を買って来る。
いつからだったか、ユナが仲間から服を借りる様になってからはユナに服の事を言わなくなった。
まァ正直、本人がいいなら服なんてどうでもいいと思う…”コレ”を除けば。
マルコはユナの姿を一瞥すると再び大きな溜息を吐いた。
今、目の前のユナはマルコから借りたシャツを一枚着ているだけなのだ。
小柄なユナはシャツだけでもその裾は太腿まで届いているのだが、流石にその格好で船内を彷徨くのは止めて貰いたい。
ユナがこの船に来てから一年近くが経とうとしていた。見た目は13くらいとまだガキだが、その雰囲気はガキとは思えないくらいに大人びている。
まぁ実際ユナはもういい歳を過ぎているのだから当たり前と言えば当たり前かも知れないが。
野郎しかいないこの船で、肩がはだけたシャツに真っ白い太腿を惜しげも無く晒した格好は、見る奴が見れば変な気を起こしかねない。