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【YOI・男主】愚者の贈り物

第8章 第4日目・女子FS開催中


純は、リンクの縁からメモとペンを取ってくると、勇利の前に差し出した。
「勇利なら、この構成の方がええと思うわ。スピンは…」
「僕、純みたいなドーナツスピンは出来ないよ?」
「…それはハナから求めてへんから安心し。流石の僕も、当時FSでやってたビールマンはもう無理やし」
「純さん、実家の方から荷物届きましたよ」
すると、そんな純の背後にスタッフからの声がかかった。
待ってましたとばかりに、純は一旦リンクから出ると礼を言ってスタッフから箱を受け取る。
「純、それ何?」
「ん?コレ!」
勇利の質問に、純は、箱から取り出した小ぶりの和傘を開いてみせた。
「EXに小道具はつきものやしな。競技では持てへんかったけど、これでカッコがつくわ」
「ちょ、ちょっと恥ずかしいかも…」
「ハァ?こないだのGPFで、コーチを小道具にしてたんは誰やねんな」
「小道具って…あれはヴィクトルの競技復帰発表を兼ねた、本当に特別だったから!」

小道具に和傘を用いながら、勇利と純のEXプロ作りは進んでいく。
「日本の舞は節と間が命や!西洋音楽の整然とした3拍子やないから、ダンスのような大ぶりしたら、衣装も雰囲気も乱れまくるで!一流の芸者がそんなお粗末な舞でどないすんねん!」
「ある程度動きを見せなきゃ、映えないじゃないか!」
「それでも、舞とダンスは違う。和プロ舐めんといてくれ」
「舐めてなんか…!」
「動かすんは、口より身体や!判らんなら、もっぺん舞ったるから!」

OKが出なければ諦めろと言いつつ、いざ始まってみればそれは只のレッスンのようなものだった。
フィーリング重視だったヴィクトルと異なり、理論派である純の指導は別の意味で容赦なかったが、
「うん、今の動きとっても素敵やわ!」
その分、コンプレックスだという右頬の笑窪を、惜しげもなく晒しながら賞賛の言葉を口にする純の笑顔は、心地良いものであった。
純もまた、僅かな指摘であっという間に身につけていく勇利の要領の良さに、改めて自分との違いを感じると同時に、競技者とは異なるスケートの新たな魅力に早くも取り憑かれ始めていた。
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