• テキストサイズ

【YOI・男主】愚者の贈り物

第4章 男子FS・前夜


備え付けのティーポットを沸かしてハーブティーをいれた純が、キューブ型のブラウンシュガーを添えたカップとソーサーをトレイごと勇利の前に置いてくれた。
礼を言って口をつけた勇利が砂糖を足している間、純も自分のハーブティーで喉を潤すと、やがていつもより低い声で尋ねてきた。
「なあ、勇利。昔、僕が言うた事憶えてるか?」
「昔って?」
「シニア2年目の終わりに先輩らがこぞって引退した後、まともに戦えるシニアの男子が、僕と勇利の2人きりになった時の事や」
勇利がシニアデビューしたばかりの頃は、日本の男子シングルは世界の強豪達と争える実力者が揃っていた。
そんな先輩達を尻目に勇利も自分なりの努力を続けていたが、シニア2年目の終盤にその先輩達が様々な理由で競技を引退し、そればかりか3年目に入ろうとした矢先には、純までもが怪我で戦線を離脱してしまったのだ。

「『これからは僕ら2人で、頑張って日本男子のフィギュアを支えていかんとな』…そう言うたのに、僕は取り返しのつかんポカをして勇利を1人きりにさせてしもうたんや」
「それは…しょうがないよ。膝の靭帯全断裂なんて…僕だってもしもあんな酷い怪我をしたら、競技続けられたかどうかも判らない」
「それでも、僕は結果的にシニアの重圧やマスコミからの心無い中傷その他全部、勇利に押し付けたんや…3年目のGPSも、ワールドで先輩らの持ってた枠減らした時も…あんなん仕方ないのに、まるで勇利1人の責任みたいに戦犯扱いされてたやんか!」
初めて見る声を荒げた純とその言葉に、勇利は無意識に口元を引き締める。
「純だって、怪我したくてした訳じゃないだろ?今、こうしてここにいる事は、純が頑張って戻ってきたから…」
「せやったら、もっと早うに戻ってきとったわ!普段えらっそうに礼儀や何や抜かしとるクセに、手術やリハビリのキツさに根ぇ上げて、いっとき全部から逃げ出して親戚の家篭り続けてたんやで、僕は!」
「純…」
いつしか純の瞳からは、大粒の涙が零れ落ちていた。
/ 64ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp