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【YOI・男主】愚者の贈り物

第1章 プロローグ


日本フィギュアスケート界唯一の特別強化選手である勝生勇利が、ソチのトイレで泣き暮れた挙げ句ジュニアチャンプのロシアンヤンキーにカチコミをかけられていた頃。

京都の昔ながらの風情が残るとある一軒家では、リビング・レジェンドの圧勝に反して唯一の日本人選手としてGPFに初参戦していた勝生勇利惨敗のニュースを観ながら、ひとりの青年が眉を顰めながら悪態を吐いていた。
「…アホか。何が『惨敗』や。ファイナルまで行けた事がどんだけ凄いか判れへんのかこのボケが」
「残念やったねえ、勝生くんは」
その横では、青年の母親らしき女性が青年にお茶のおかわりを注ぎながらのんびりと返す。
「大体、ジャンプ殆ど潰れしもてもあそこまでの点稼げたいう事は、それ以外の要素で高評価を得られたからや。国背負って戦ってる選手をろくに労いもせんでホンマ言いたい放題…」
「まあ、しゃあないわなあ。スケートに限らず、日本人は優勝か表彰台に乗らんと褒めてくれへんから」

あんたも覚えがあるやろ?と続けられて、青年は気まずそうな顔をした。
「勝生くん、どないすんのやろなあ」
「……あいつの目ぇは、まだ輝きを失ってへん。誰よりもスケートが好きで負けず嫌いのあいつが、そない簡単に潰れる訳ないやろ」

不本意な演技の後で、それでも観客に応える勇利の姿をネット中継のタブレット越しから見た青年は、確信に満ちた声でまるで自分に言い聞かせるかのように呟く。
「じゃあ、あんたはどうするつもりなん?」
「え?僕?僕は…資料も大方揃うてきたから、後はのんびり再来年の1月目指して修論完成させよかなと」
「せやのうて。純、あんたも勝生くんとおんなじで、まだスケートへの情熱は失うてへんのやろ?」
母親の言葉に『純』と呼ばれた青年は、無意識に表情を硬くさせる。
つと視線を遊ばせた先に映った利き足の膝を見留めると、そっと衣服越しのそれをいたわるように撫ぜた。
「大怪我して、手術して、強化指定も外れて…そりゃあ一時はあまりのしんどさに色んなモンから逃げ出しとった事もあったけど、結局スケート自体は今も辞めんと続けてきてるやないの」
「お母ちゃん…僕は、」
「コーチからも、しょっちゅうリンクでのあんたの様子その他について連絡来てたんよ。コーチ言うとったわ。『そろそろいけるんやないか』て」
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