第5章 番外編 ー執事が考える罰ゲームー
「ねっこちゃ〜〜ん、どこ〜〜?」
ーやばいやばい、もうきちゃう。
「ねこちゃ〜〜ん?」
フィニが私の隠れているバラの花壇の1つ手前の花壇に立っている。幸い、花壇は私がかがんでも十分に隠れる高さではある。
「あっここかな?」
ーあのバカ庭師!!花壇を裂いてまで私のこと探すか?!
葉っぱが擦れて半分に割れる。そして私の隠れている花壇のバラを裂こうとする。
ーあああ終わった。
するとふわりと私の体が浮いた。浮いたかと思えばそのまままっすぐに何かに連れて行かれ、温室へと入れられた。
まっすぐな胸板に落ち着く香り。これが私の求めていたものだ。
私は胸板に顔を擦り付け、体をくねらす。尻尾も機嫌が良さげに揺れている。
「本当にいけない猫ですね」
「にゃあ〜…」
セバスチャンが背中と顎を撫でて優しい瞳で私を見下ろす。
人間の私は撫でないくせに猫になった私は撫でるなんて。
なんだか猫に負けた気分だ。
セバスチャンは私の顎に指をかけると、私の唇に唇を重ねてくる。
恋人と交わすような短くて甘いキスは今までの欲望だけのようなキスとは違っていた。
「っ…もうなに…」
「喋れましたね」
私は何度か声を出してみると、猫の鳴き声にならなかった。
嬉しいのか悲しいのかわからない感情が私の中で渦巻いた。
セバスチャンは背中に回していた手を離して失礼します、と言うと温室を出て行った。
まだ残る唇の感触。回された手のかすかな温もり。そして優しい瞳。
もしそれが全て私にむけられるものならばいいのに。
私はまだこの感情の名前を思い出せなかった。