第4章 いつでも
「人間のほうがよっぽど悪魔らしいではありませんか」
小さな笑い声が聞こえ、アイリーンは窓から目を離してセバスチャンを見る。
細められた瞳からはあの赤が宝石のように輝き、いやしくアイリーンを見下ろしていた。
「自分のためになるなら何でもする、どんな手段も問わない。友人を殺すことになっても人間は自分の欲望に忠実なんですね」
「私は今までに強欲じゃない人を見たことがないわ。もちろん私も含めて」
他人を蹴落とし、たとえそれで命を落とすことになったとしても決して後ろは振り向かない。
ただ前を向いてまた見えない暗闇に戻ろうとする。
「お嬢様には幸せになれるチャンスがあります。こんな辛い道からは離れてしまえば楽に生きていけます。この家も伯爵という地位も全てあなたのものなんですから」
セバスチャンが再び外を眺め始めたアイリーンに語りかける。
甘い吐息がかかった声はまるで獲物を誘惑するかのようだった。
「…私は幸せになるために生き残ったんじゃない。この屋敷を焼いてリュシアンナ家を滅ぼそうとしたやつがいる。そしてまだ滅んでないと分かればいずれ私の首を狩りにくるわ。私はその時をずっと待ってる」
ー嗚呼…
セバスチャンの背筋にぞくぞくっとした快楽が突き抜けた。
光から目を背け、戻ろうとせずそして終わりの見えない暗闇にと突き進んでいくなんと滑稽で哀れで虚しい私の主人。
「…飛んだ戯言で申し訳ありませんでした」
アイリーンはクスッと笑って見せてティーカップを突き出した。
「紅茶がぬるいわ。入れ直して」