第12章 重なり合う牙
「はあっ!はあ…はあ…はっ…」
じんわりと額に汗が滲んでいる。
早く脈打つ心臓の辺りをぎゅっと抑えて、アイリーンは大きく息を吸ったり吐いたりした。
窓から差し込む光に開けていた本が照らされいるのを見ると、少し落ち着いてきた。
ここは"黒"じゃない。
コンコン、と木製のドアを叩く軽い音がしたと同時にドアが開けられる。
「失礼します、お嬢様」
燕尾服に身をつつんだセバスチャンがやってきた。
「…えぇ」
セバスチャンを見ると、アイリーンの早っていた脈が静かに凪になっていく。
「青ざめた顔をなさってどういたしましたか?」
セバスチャンはアイリーンの顔を覗き込み、顔にかかった髪を指ですくいあげ、耳にかける。
「何でもないわ」
パタンと本を閉じて脚立から降りようとすると、足を踏み外す。
バランスを崩して落ちそうになるところをセバスチャンが腰を掴んでキャッチした。
「何でもなくは無さそうですが?」
アイリーンは唇を噛んで屈辱に耐えようとし、その反動で顔が赤くなる。
セバスチャンはふっと微笑み、アイリーンを下ろした。