第9章 牙
セバスチャンがにこりと笑って、手を洗い、マーガレットの横に立つ。
家事はなにも出来ない私は大人しくテーブルに座ると、端に置いている小さなカードに手を伸ばした。
クリーム色のカードを裏返してみると青色の万年筆で描かれた美しい筆記体が記されていた。
『Tonight 22:00。It's at a blessings in Dracula and others.』
ー今夜10時。ドラキュラたちに祝福のときを。
今夜10時に何かが全て動く。
決着をつけるならここだ。
私は食堂から出ると荷物をまとめて修道服を脱ぎ、トランクに詰め込むと階段を降りて食堂にもう一度戻った。
「リュシーさん。どうなさったのですか?」
「弟が病気になったと電話がありまして家に帰らないといけないんです…今までありがとうございました」
私はお辞儀をした。そして顔をあげると満面の作り笑いを浮かべてお礼を言った。
「そうだったのですね…弟さんに神の祝福を」
マーガレットが手を合わせて祈りのポーズを見せ、再び昼食作りに取り掛かった。
「お嬢様、どういうおつもりです」
「このカードを見て、今夜にこの事件の全てが決まる。あなたはマーガレットからこの会に参加する方法を聞き出して、聞き出したら戻ってきなさい」
私はカードをセバスチャンに見せる。セバスチャンはそのカードを手に取るとじっと見つめて修道服の内ポケットへとしまった。
「かしこまりました。しかし、お嬢様はお一人で帰れるんですか?」
「すぐそこだし、送っていって」
「…かしこまりました」
セバスチャンが少し大きめのため息をつくと私を抱きかかえた。
この香りは私だけのもの。
首に手を回すと強く手を握り返した。