第9章 牙
「みなさん、こんにちは」
牧師らしき人物が教壇の上に立って、聖書を開けた。すると一気に人々は立ち上がり、同じように聖書を開けて歌を歌い始めた。
白は穢れなき色 神が好む美しき色
私たちは神によって産み出されたものである
おお 神よ
おお 神よ
あなたの好きな白をまといましょう
おお 神よ
おお 神よ
これからもあなたを信じましょう
「…私には縁がない歌でございますね」
セバスチャンが身をかがめて私に耳打ちをする。周りの人々はこの歌を生き生きと歌っているようだった。
「私にも縁がないわね」
歌を歌い終わるとマーガレットが木製のワゴンを押して一人一人に小さいガラスグラスを渡している。そして1番後ろの私たちにもグラスが渡される。透明な液体が半分入っており、小さなミントが浮かんでいる。
「新しいご信者の方は知らなかったですね、これは“聖水”です。体の中から穢れたものを取り除いてくれるでしょう」
では、と頭を下げてマーガレットが視界から消える。
「これは飲んでも大丈夫かしら」
「毒の香りは致しません。ミントも本物のミントのようですし、害はありません」
私はセバスチャンの言葉を聞いてからそのグラスに口をつけて飲み干した。