第8章 変化
私はオペラハウスからまた馬車に乗って晩餐会の会場へと向かっていた。
街はすっかり夜に染まっており、ガス灯がぼんやりと地面を照らしていた。
「おや、あれがその聖マドペンスド教会ですね」
セバスチャンに促されて私は首を左に向けた。聖マドペンスド教会は夜の街にほんやり浮かんでいた。
真っ白であろう外壁に、屋根の1番上には天使が羽ばたいていた。
「見た目は普通の教会ね。セバスチャン、なにか感じる?」
私が尋ねるとセバスチャンは目を赤くして気配を探る。
「いいえ、なにも」
首を横にふると真っ直ぐ私を見据えた。私はそのセバスチャンの視線を流すように窓の外の風景に目を向けた。
私とセバスチャンはキスもそういう行為もするが、恋人じゃない。
ご飯を食べて胃で消化するように、私たちのこの行為も何かを消化するための行為なのだ。
悪魔に恋をするだなんて馬鹿げてる。
セバスチャンに命令すれば一生くらいならともにいてくれるだろうが、普通の夫婦のように隣に墓が来ることは永遠にない。
だって私たちは普通なんかじゃないのだから。
愛してると囁いてきても、どんなに可愛いと言われても私は決してなびこうとはしたくない。
でもそんな心とは裏腹に少し喜ぶ自分もいる。
なんと惨めで愚かで弱いのだろう。
私は手を握りしめて窓にもたれた。外気の温度が肩に感じる。
ー今日は浴びるように飲もう
全てを忘れ去るくらいに何かに酔いしれてあなたのことを忘れられたらいいのに。