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【黒執事】壊れた貴女を看取るまで

第8章 変化


「お嬢ちゃんはドラキュラって知ってる?」

音楽が悲劇の音楽へと音色を変える。私ははい、と言って頷いた。

「こういうのは、お嬢ちゃんのお家の“専門分野”かしらと思って話すから笑わないでちょうだいね」

陛下は扇子を口元で広げて目に鋭い眼光を灯す。優しい老人の雰囲気はとうに消えて、ウサギを狙うタカの雰囲気を感じた。

「最近ね、教会が黒魔術に手を出しているらしいのよね。だからそれをお嬢ちゃんに調べて欲しいの」

パチン、と小さい音を立てて扇子を陛下は閉じる。

「陛下。お言葉かもしれませんが、そういう魔術は普通の人間に出来るものではありません。何かの勘違いでは?」

普通の精神状態の人間を悪魔は好まない。血と憎悪と苦しみと絶望を全身に浴びて黒にまみれた人間が心の底から叫び、悪魔の通り道となる陣を描くことによって現れる。
正しく生き、神のために尽くしている白である教会のシスターや牧師、神父たちは正しい人間だからこそ悪魔を呼ぶための黒魔術に手を染める必要はない。私はそう考えた。

「そうねお嬢ちゃん。お嬢ちゃんが言いたいことはとても良く分かるわ。でもね、お嬢ちゃん」

レイチェルが悲鳴に似た叫びを音楽に合わせて歌う。私はロミオとジュリエットを詳しく知らないからどのシーンかは想像できないが、誰か死んだのだろう。

「それがお嬢ちゃんの仕事。与えられた仕事にケチをつけるのは野良犬でも出来ること。あなたはその程度の価値のワンちゃんじゃないわよね?」

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