第7章 無意味なひと
「恨みを買われるような覚えのある若い女性ねえ…私に心当たりはないけど、セバスチャンはどう?」
私はセバスチャンにティーカップを渡して新しいダージリンティーを入れさせる。
セバスチャンは少し考えるような素振りを見せると私にティーカップを戻して、口を開いた。
「私にも見当がございませんね」
セバスチャンにも見当がないというと、とうとうこの問題の答えは1つに絞られた。
「ということは、誰かがまた私たちを潰しにこようとしてるわけね」
しばらくお互いに見つめ合った。さっきまでの穏やかな雰囲気は消え、ようやく現れた私の倒すべき相手に緊張が高まっていく。
殺伐とした空気が肌を掠めてピリピリとする。
「あと少しでございますね」
「そうね」
私はくるりと椅子を回転させて窓の外を見た。自由に飛び回る鳥。澄んだ青空。どれも悪魔に魂を売った私とは不釣り合いな気がして気が滅入ってしまいそうになる。
心に黒いシミを作ったのは自分なのに馬鹿らしい。
窓を開けて大きく息を吸うと荒ぶっている心が静まる気がした。
「落ち着かれないのですか?」
セバスチャンが後ろから声をかけてくる。私は軽く頷く。
「私はいつだってこの時を待ってたわ」