第29章 増えていく粟田口
「お待たせ。薬研、どうかした?」
その様子を不思議に思いつつ声をかけると、薬研はこちらをちらっと確認し、また刀の方を向いて答える。
薬研「いや、まぁ顕現すれば分かることだし、気にすんな。」
薬研はそう言って、刀の側を離れた。
薬研「さぁ、大将。早いところ顕現しちまおうぜ。」
「、、、、、」
その言葉に返事が出来ずにいると、薬研が近づいてきてたずねる。
薬研「なんだ、不安か?」
「うん。」
七葉が素直に答えると、薬研は励ますように明るく言った。
薬研「な~に、心配すんな!いざという時は、俺っちが治療してやる。そのために俺っちを残したんだろ?」
「そう、なんだけど、、、」
頭ではわかっていても、心がそれについて行かない。
七葉が少し口ごもりうつ向いて答えると、薬研は七葉の頭をぽんぽんとする。
薬研「大丈夫だ、俺っちがついてる。それに、新しい家族を迎えるのは嬉しいことだろ?なら、辛気くさいのは無しだ。」
そう言って微笑んだ薬研の表情に、先ほどまでの不安な気持ちがゆっくりと溶けていく。
「うん、ありがと!」
七葉は薬研にお礼を言って、刀へと近く。
綺麗な刀身を見つめながら、両手で刀を手に取り軽く持ち上げた時、茎の目釘孔の下に銘が刻まれているのに気が付いた。
さっき薬研が見ていたのはこれだろうか?
一瞬頭にそんなことがよぎったが、今は顕現に集中するためそっと目を閉じる。
刀に唇を寄せ軽く息を吹き込むと、辺りが光に包まれ桜の花びらが舞う感覚を感じる。
目を開く瞬間、「綺麗だ。」と呟く薬研の声が聞こえた気がした。
お付きのキツネ「やあやあこれなるは、鎌倉時代の打刀、鳴狐と申します。わたくしはお付きのキツネでございます!」
本体「、、、、、よろしく。」
「へ?」
突然喋りだしたキツネと、両手でキツネを作っている青年の姿に驚いていると、後ろから薬研の声が聞こえる。
薬研「お!やっぱり鳴狐だったな!」
お付きのキツネ「これはこれは薬研殿、いついらいででございましょうか。」
本体「、、、、久しぶり。」
薬研「あぁ、と言うか、相変わらずだな。」
「えっと、知り合い?」
近付いて親しそうに話している薬研に、七葉はたずねる。