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毒舌な保健医。

第1章 保健医


『あっ…。』


やってしまった…、
連絡に気づけなかった…。


『あーぁ、タイムアップか…。』


先生は溜息をはいて私を見つめ
驚いたように固まった。


『あっ?どした…
電話出ねぇのか…?迎えだろ。』


『えっ…ぁ…』


震える手が携帯を握ったまま
鳴り続ける着信音が響く。


出なきゃ…出たくない
出たら…なんて言えばいいの…。


『どうしよう…怒られる
兄さんに…ひ、く…ぅっ』


本格的に泣き始めた私に
先生は頭を乱暴に撫で回す。


『お前、方向音痴か。』


『えっ…?』


予想打もしない発言に
私は首を傾げて先生を見る。


『方向音痴かって聞いてんの。』


『う…うん、かなりの…。』


屋上に来るまでも何回か
校内回ったくらいだし…。


『よし、わかった。貸せ。』


貸せというよりは取り上げた
私の携帯を先生は持ち直し


通知する所を迷わずに押した。


(えっ…先生が出るの?)


先生は"シィ…"と、指先を
唇に立てて私を黙らせる。


ひくつく喉を抑えるように
私は息をなるべく止めた。





ピッ


『あー、もしもしすみません。』


先生は私の頭を撫でながら
着信音相手に話しかける。


『"………どなたですか。"』


スピーカーモードにしてるのか
私の方まで兄の声が聞こえる。


機械音だけど兄は怒ってる…
それは連絡に気付かなかったから?


それとも先生が先に出たから…?


『私、学校の保健医なんですけど
この携帯落し物なんですよね。』


嘘八百…先生は嘘をつきまくる。


私が迷子になって携帯落として
泣きじゃくりながら探している


そういう設定らしい…


恐る恐る見上げれば
先生は涙が溢れる目元に親指を
擦って涙を掬いとってくれた。


わしゃわしゃと撫でる手つきは
優しくて嬉し泣きしそうになる。



話を終えて、ピッと切ると
先生は携帯を返してくれた。


『んじゃ、ま…帰るか。』


何事も無かったように
先生は近くに車を停めている
兄さんの所まで連れて行って
くれるらしい。


『迷子設定なんだから
俺が行くしかねぇだろ…、

泣いててよかったな…
赤い顔隠せてんじゃん。』


意地悪な言い方…だけど
心は何故か惹かれてゆく。






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