第4章 恋の試練場
城では、秀吉が門の前で行ったり来たりを繰り返していた。
門番はもう半刻ほどその姿を眺めて、苦笑している。
遠くに三成と愛の姿を見つけると、足を止め門の内側へ身を潜め、
二人が門をくぐる頃合いで、あたかも今来たようなふりをして
『今帰ったのか?遅かったじゃないか。』
と二人に話しかける。
「秀吉さん、ずっと待ってたの?」
と、愛が驚くと、
『そんなわけないだろ、今出てきたところだ』
と目を逸らしながら言う。
門番は、笑いを嚙み殺し、その様子を見守っている。
「秀吉様、予定より遅くなってしまいましたが、今戻りました。
これから愛様をお部屋までお送りして参りますね」
と三成が笑顔で言う。
『もう夕餉の時間だ。遅れるなよ』
と三成に声をかけ、その場を立ち去る。
(近くでみたら、本当にお似合いに見えるじゃないか…
それに、愛の顔が綻んでいた…まぁ、良しとするか…)
愛の部屋に着くと、三成は荷物を置き、
『愛様、今日はお疲れ様でした。
夕餉はお部屋でなさいますか?』
と訊く。
今朝の事を思い出しながら、愛はそっとうなづく。
『では、愛様はお着替えをなさって此方でお待ち下さい。
すぐに準備をさせますから』
「あ、三成くん、ゆっくりで大丈夫。
先に湯浴みをさせて貰えるように女中さんにお願いするから」
と言う。
『わかりました。そうですね、今日は沢山歩きましたからね。
ゆっくりお入りになって下さい。
では、お戻りになりましたら、女中にお申し付けくださいね』
と、部屋を出て行く。
(あ…改めてお礼言うの忘れちゃった…
明日言わなきゃ!)
女中に湯浴みをしたいとお願いし、愛は着替えながら今日一日を振り返っていた。
(朝は、気まずくて、信長様に泣きついちゃったけど、
三成くんのお陰で、良いことがいっぱいあったな…)