第4章 恋の試練場
先に湯浴みを終え、部屋に戻ると女中に声をかけ、
夕餉の用意をお願いする。
その間に、今日反物屋より三成へと献上という形で贈られた反物を広げた。
(あんな立派な反物屋さん、三成くん無しでは行く機会さえ無かっただろうな…)
久し振りに、気持ちが昂ぶった。
生地を目の前に、想像力をフルで働かせて、1つの物を選ぶのは、
いつぶりの事だっただろう。
そんな事を考えながら、丁寧に生地を撫でる。
三成の事を考え、一生懸命選んだ生地は、とても愛おしく思えた。
( こんな丁寧な染め具合、本当に滅多に出会えないな)
反物と一緒に包まれた端切れにも目をやる。
色とりどりの端切れに囲まれると、今が戦国時代という事も忘れる。
(そうだ、反物をくれた女中さんにも巾着をプレゼントしよう)
一枚一枚、丁寧に仕分けをしていく。
(香袋にしてもかわいいかも…)
布を手にすれば、今まで忘れていた、デザインを考える楽しさが蘇る。
愛が夢中になっていると、襖の外から声がかかった。
『愛様、お食事をお持ちしました』
( 三成くん?!)
外から声をかけたのは、女中ではなく三成。
「はい…」
襖を開けると、ニコニコとした三成がお膳を持っていた。
「どうしたの?三成くん!」
驚く愛に、信長直々に言われている事を告げる。
「そんな…ごめんね、何から何まで…」
申し訳なさでいっぱいの愛に、
『いいえ、この位は容易い事ですよ』
と笑う三成は、不器用な手つきで用意を始める。
一生懸命な三成に微笑ましく思いながら、お礼を述べると、
思ってもいなかった言葉がかけられる。
『愛様…お食事、1人で寂しくはないですか?』
確かに、広間で気まずく食べる事からは解放されたが、
毎食一人で食事をするのは味気ないかもしれない…
そう思いながらも、
「私が無理を言ってこうしてもらってるから、我儘は言えないよ」
と、力ない笑顔で答える。
『もし宜しければ…』
遠慮がちに三成は信長のもう1つの指示を伝える。
『私もこちらでご一緒しても宜しいですか?』