第4章 恋の試練場
「今はまだ寒いけど、これが出来上がる頃には、
もう少し暖かい風になってるかなと思って…
春から着れそうな色味も素敵だったから。
今三成くんが着ている羽織はとても温かそうで良いものだから、
それは寒い時に着てもらって、私が仕立てるのはそれよりも薄手のものにするから…」
と、一生懸命選んだ理由を話す。
『これは、お仕立てが済みましたら是非私にも見せて頂けないでしょうか。
素敵な色味なのですが、仕立て方が難しそうだと思っていた反物でございます。」
と、店主が目を輝かせて言う。
「でも、そんな素敵な一品だったら、お値段高かったかな…」
申し訳なさそうに愛が言うと、
『これは、私からのお願いなのですが、是非此方の反物を石田様に献上させて頂きたい。
宜しいでしょうか、石田様。』
「私は一向に構いませんが、宜しいのでしょうか」
と三成が驚く。
『ええ、構いません。この様な目利きのできる腕の良いお仕立てする方がいらっしゃるのです。
ぜひ、反物屋としても、仕上がりが見てみたい、その一心で御座います』
(献上って、お金要らないってこと?なんか悪い事しちゃったかも…)
愛の心配を余所に、話は進められ、
「では、有難く頂いて参ります。出来上がれば真っ先にこちらに参らせて頂きますので」
と、三成は笑顔で店主に約束する。
『時に…そちらの姫君がお持ちの巾着も、もしかしてあなたのお仕立てですか?』
と、店主が愛の持ち物を指す。
「はい。着物を作る際に余り布が出ますので、そちらをつぎはいで作ったものです」
と、自分の巾着を差し出す。
それは、落ち着きのある赤い布や、小花柄のものなどを継ぎ合わせたもの。
店主は手に取りまじまじと見て、
『布を大切になさる思い、感服致します。
よろしければ、こちらも是非お持ち下さい』
と、奥から色取り取りの端切れを持ち出す。
「え?宜しいのですか?」
と、その端切れを受け取り愛が目を瞬かせる。
『ええ、勿論です。母が生きていた頃は、姫君のように色々な小物をこしらえ、
店頭にも置いておりましたが、今ではその技を持ったものもおらず、
泣く泣く捨てていたものでございます。
ですが、元は良質の布ですので、その様に使って頂けるのならぜひお持ちいただきたい』
店主は、端切れを大切そうに見ながら微笑む。