第4章 恋の試練場
そう言って、三成の頬を悪戯に突いていると、
陽のせいだけではなく、真っ赤になった三成が、
『そ、そうでした、愛様、こちらを宜しければ』
と、懐から簪を渡す。
「え?!」
驚いて受け取ると、燕脂の簪に深い紫の揺れる花があしらわれている。
『先程の小物屋に愛様に似合いそうな物がありましたので』
そういうと、愛の手から簪を取り上げ、そっと髪に刺す。
『うん。やっぱりお似合いです、愛様』
と、にっこり笑う。
「私、何にもお礼できないのに、ごめんね?
でも、とっても嬉しい!ありがとう」
少し申し訳なさそうな顔になる愛を見て、三成は少し考え込むと、
『愛様宜しければ陽が出ているうちに、もう一軒だけお付き合いいただけますか?
それが私へのお返しで十分です!』
と笑顔で続ける。
愛は、嬉しそうに刺された簪の飾りを手で揺らしながら、
「うん、私にできることなら。ぜひ、お付き合いさせて?」
と、申し出る。
茶屋を出て、今度は城下を城に向かって歩いていく。
2人が手を繋いでいるのは、もう当たり前の光景になっていた。
三成はある一軒の店の前で足を止めて、『ここです』と言う。
そこは、反物屋だった。
店に一歩入ると、その品揃えの多さに愛は目を見張る。
「す、凄いですね!素敵な布が沢山…」
そう言われ、店の主人が振り返り、
「これはこれは、石田様、いらっしゃいませ。
今日は姫様連れとはお珍しいですね」
と微笑む。
『愛様、この中から、私に似合うものを選んで頂けますか?』
「え?」
驚く愛に、三成は笑顔で、
『愛様に選んでいただき、仕立てて頂ければ、これ以上のお返しはありませんから!』
と愛に微笑みかける。
「そ、そんな事でいいの?しかも、私としては、それご褒美だよ…」
『良いんです。私がそうして貰いたのです。さぁ…』
そのやり取りを聞いていた店主は、
「此方の姫君は、着物の仕立てができるのですか?」
と驚く。
『えぇ、今お召しになっているものも、愛様のお仕立てです』
と、三成が説明する。
「そうでしたか、これは素晴らしい仕上がりです。石田様、出来上がりが楽しみですね」