第4章 恋の試練場
『愛様、ご準備整いましたでしょうか』
約束通りの時間に、部屋の外から三成の声がした。
準備を終えて待っていた愛は、
「うん!今行くね!」
と、元気な声で返事をする。
(家康様から話を聞きましたが、今はお元気そうで良かったです…)
その声を聞き、ここに来る前に家康に呼び止められたのを思い出す。
朝餉の時に、隣にいた三成は勿論愛が余り元気なく、食欲も無かったのを知っている。
でも、まさか信長様に泣きながら談判するまでとは思っていなかった。
(気づいてあげられなくて、申し訳ありませんでした…)
秀吉の構い過ぎに、愛が重苦しい圧を感じていた事は感づいていた。
勿論、秀吉の事を嫌いでないことも。ただ、期待に応えようと思うあまりの
苦しさだったのだと思う。
光秀や政宗から揶揄いを受けている事も。その度に、愛は肩を落とし三成に話をする。
でも最後は笑顔になってくれていた。
だから、今朝も元気のない愛を見て、一緒に城下へ行くことでまた笑顔になるだろう。
その位しか、単純に思って無かったのである。
三成にとって、家康の話の衝撃は大きく、もっと気にしてやればよかったと悔やみながら
今、愛の部屋の目の前にいるのだ。
だから、中から聞こえた元気な声に、少しだけホッとしていた。
「お待たせしました!三成くん!」
そう言って襖から出てきた愛に、三成は目を見開き、言葉を詰まらせた。
そんな三成を見て、愛は不安顔で
「変かな…?」と消え入りそうな声で言う。
三成は、何時もの笑顔に少し顔を赧らめながら
『いいえ、愛様、とっても素敵ですよ。素敵すぎて、どこのお姫様かと思ってしまいました。
他の誰にも見せたくないくらいです。私だけのものにしたくなりますね』
そう言うと、でも…と続ける。
『でも、こんな素敵な愛様と一緒に逢瀬が出来る私は、日ノ本一の幸せものですね!
さぁ、行きましょう!』
と、愛に手を差し伸べる。
「三成くん…褒め過ぎだよ…。でも、ありがとう!」
顔を真っ赤にした愛は、差し出された手に自分の手を重ねた。
(もう!佐助くんのせいで、凄い意識しちゃうじゃん…。)