第4章 恋の試練場
愛が部屋に戻ると、先ほど女中に頼んだ通り、
朝餉の膳が用意されていた。
残した物が少しずつ、綺麗に盛り直されていた。
(少なくしてくれたんだ、手間かけちゃったな…)
そう思いながら、冷めてしまった煮物を1つ口に運ぶ。
(美味しい…)
落ち着いて味わえば、政宗の料理はどれも美味しかった。
それでも、三口ほどで箸は元に戻された。
おなかが空いていないわけではないが、胸のあたりにどんよりと
鉛のような物がつかえて箸が進まないのだ。
「どうしよう…。せっかく持ってきて貰ったのに、食べれない…」
そう呟いた時に、部屋でカタカタと物音がした。
愛はもう慣れたもので天井を見つめる。
『やぁ。俺が手伝ってあげようか?』
そう言って登場したのは佐助である。
「佐助君、久しぶりだね」
三成以外で唯一心を許せる友に微笑みかける。
「また安土の偵察?」
そう尋ねると、
『いや、京の方の動きが気になって、そっちの偵察。
安土には昨日入って、午後にはもう春日山に向けて出立するんだ。
幸村が、愛さんの顔見てくれば?って雪でも降りそうな事言うから
お言葉に甘えて会いにきたんだ。』
いつも淡々とした表情で一気に話す。
「そうだったんだね。佐助君が来てくれると、なんだか安心するよ。」
愛が満面の笑みで話すと、仄かに佐助は頬を赤らめた。
「あ、佐助くんお腹空いてる?良かったらこれ食べて貰えると助かるんだ…」
そう言って、お膳を佐助の方に寄せる。
『朝ごはんはまだ食べてないから、協力するよ。』
という佐助に、箸を渡す。
「ごめんね、さっきちょっと使っちゃったんだけど、同じ箸でもいいかな…」
申し訳無さそうに愛が言うと、
『願ったり叶ったり』
と、受け取る。
「わざわざ政宗が作ってくれたんだけどね…なんか食べる気分になれなくて」
そう言うと、佐助の顔がパッと煌めく。
『これを政宗さんが?!愛さん、本当に嬉しいよ。
あの伊達政宗の料理を愛さんが使った箸で食べれるなんて!
明日死んでも悔いはない!』
「ち、ちょっと大袈裟だよ…。明日死ぬなんて、この戦国時代じゃ洒落にならないし…」
佐助は愛の焦った言葉はさして気にならないようで、
政宗料理を1つ1つ堪能していた。