第4章 恋の試練場
(あれ?)
家康が廊下を歩いていると、広間から出た愛が、
周りを気にしながら女中に何か言付けているのが目に入った。
しかも、自分の部屋とは反対の廊下に向かっている。
(挙動不審…)
いつもと様子が違うのが気になり、少し罪悪感はあったけれど、
後を付けて見ることにした。
(天守?)
愛が向かった先が天守だとわかると、一瞬ひるんだが、
ここまで来ておいて…ということもあり、愛が入った直後から
ずっと聞き耳を立てていた。
(愛…ってこんなに鈍感なの…。ある意味尊敬する)
自分のせいで空気を悪くしてると聞き、家康は呆れた。
だが、次の瞬間、自分の耳を疑った。
「家康さんには相当嫌われてるみたいですし…」
(は?何言ってんの?)
家康には何も思い当たるような事がなかった。
それは彼にとっての普通でしかない。
気になっていることは認めても、嫌った覚えなど一度もない。
(なんなの、ほんとに…。)
一緒に食事をしたくないと、泣く程辛かった愛を思うと、
家康は居た堪れなくなった。
(三成の意味が…わかった…くそっ)
武将皆に好かれてると気づいてない愛としては、
笑顔で接してくれる三成が心の拠り所だったのだ。
むしろ、三成しか拠り所がなかった。
(でも、今更急に優しくなんてできないでしょ…。)
そして、最後の信長の言葉に一番の苛立ちを覚える事になる。
『1人で食べても味気なければ、三成を行かす。
いつでも呼んでやれ…』
(くっ…!)
心の中でも声にならなかった。
(あ、お館様が出てくる…)
さっと隙間に身を寄せると、その前を信長が通過していった。
家康の前を通り過ぎると同時に
『あまり天邪鬼過ぎると、取り返しがつかなくなるぞ』
と笑っている信長の声。
(ばれてた…)
諦めたように信長の少し後ろに出る。
「善処します…」とだけ告げて。