第25章 合わせ鏡(三成)
普段は絶対に見せない三成の様子にただただ驚いてしまう。
でも、そうしてしまったのは自分なのだろうとも思う。
「三成くん…どうしたのか教えてくれる?」
まるで子供を宥めるように優しく声をかけた。
「愛様…申し訳ありませんでした…」
「ううん…私も…その…さっきごめんね?
変なこと言っちゃって…」
「違うんです…」
「違う?」
「愛様のこと…わかってあげられなくて…すみませんでした」
三成の真意がわからず、愛は不思議そうに見つめる。
「私が行きたい場所は…」
「え?」
「愛様と行きたい場所は、この世の全ての場所なのです。
貴女さえ居てくだされば、私はどこでも構わない…」
「それ…だから、特別行きたい場所はないって…言ったの?」
「はい… 愛様とならば、私にとってはどこも特別なのです」
目を伏せたまましょげた仔犬のように呟く三成を
愛はたまらなく愛おしく思う。
「それならそう言ってくれたらよかったのに…」
三成の肩を撫でながら、小さく微笑む。
「でも… 愛様が私とだから行きたいところややりたい事を
考えてくださっていたのに…私は貴女を傷つけてしまいました…」
「三成くん…こっち向いて?」
ずっと俯いたままの三成に優しく声をかける。
三成はゆっくりと愛の顔に視線をあてた。
「三成くんは、もっと我儘になっていいと思うんだ」
「我儘に?」
「うん。そうだよ?いつも私の事を優先してくれるし
私の好きな事に付き合ってくれるけど、
三成くんだってもっともっと言ってくれていいんだよ?
お仕事の時だって三成くんは自分の時間を犠牲にしてまで
秀吉さんや信長様のために働いてるでしょ?
だから私の前ではもっともっと我儘になっていいんだよ?」
その言葉に三成は一つゆっくりと息を吐き笑顔を見せる。
「私は貴女が思っているよずっと貪欲で我儘なのです」
「え?」
「だって…」
言いながら三成の手が愛の頬に触れる。
「だって?」
『失礼します。夕餉お持ちいたしました』
その声に二人は見合わせて、
そしてすぐに互いに頬を染めて目を逸らした。