第25章 合わせ鏡(三成)
ちゃぽん…
「はぁ〜気持ちいい…」
(教えてもらった通り、とても素敵な温泉だなぁ…)
「愛様…」
ゆっくり温泉につかっていると、
ふいに近くで三成の声がした。
「え?!三成くんっ?」
自分のよりかかる岩の後ろから、まごうことなき三成の声がする。
(こ、混浴!気づかなかった!)
愛は女将が去ったあと、
先ほどの空気から逃げるように、先にお風呂に入ると部屋を出たのだった。
「そちらに行ってもよろしいですか?」
(ええっ…)
「だ、だめだよ…恥ずかしいもん!」
「そうですか…」
あからさまにがっかりした声が響く。
「てゆうか、ほかに誰か来たら恥ずかしいから上がろうかな…」
「それは大丈夫ですよ。今日は他の宿泊客はいないそうですから」
「そうなんだ…?」
(あれ?結構人気って聞いてたけどな…)
「すみません… 愛様がここに行こうと言ってくださった日に
手を回してしまいました…」
「そうだったの?!知らなかった…」
二人は岩越しに背中合わせで会話を続ける。
「三成くん…明日の帰り道は行きたいところある?」
(近くに紅葉が綺麗なところあるんだよね…
三成くんと見られたら楽しいだろうなぁ…
あ、でも滝が見られる絶景ポイントもあるんだっけ…)
「いえ、私は特にありません。
愛様が行きたいところあれば…」
いつもどおりの返事。
もう何度も何度も聞いてきた。
「もういいよ…」
「え?」
岩越しで見えない愛の声は明かに震えている。
「愛さま?」
ちゃぽ…
「こないで…」
愛は必死に涙を堪えた。
(な、なにが…)
来ないでと言われ三成は動きを止める。
「三成くんは…私と行きたいところ…ないの?」
「愛さま?」
「私は…いっぱいある…
三成くんと一緒に行きたい場所…
三成くんと一緒に行けたら楽しいだろうなって思う場所…」
堪えてもどうしても声が震えてしまう。
「愛様そちらに…」
「来ないでってば!」
今までに聞いたことのない強い口調に
三成は完全に思考が停止する。
「三成くんに見てもらいたくてお洒落だってする…ぐすっ…
三成くんは…私とだから…行きたいところ…ないんだね…」