第25章 合わせ鏡(三成)
「三成くん?どこか寄りたいところとかある?」
それまで他愛のない会話をしながらの道すがら
ふと振り向いて愛がもう一度訊ねる。
「そうですね…私は特にないですが、
この先には確か市場がある町があります。
愛様ご覧になりますか?」
いつもと変わらない笑顔で三成が答える。
「どこもないの?行きたいところ…」
「えぇ、私は大丈夫ですよ、お気になさらず」
本当にそう思っているだろう。
いつもの優しい表情からそれが感じ取れる。
「そっか…」
(私は…三成くんと一緒に市を見れたらって思うのにな…)
チクリと感じた胸の痛みを隠して笑顔を作る。
「私も…大丈夫。特に見たいものないから…」
(愛様?)
どこか曇ったような声と表情をしたような気がして三成に不安な気持ちが過ぎる。
(私に気を使っているのかもしれないですね…)
ぎゅ…
前にいる愛を片腕で自分に引き寄せる。
「三成くん?」
少し驚いたようにもう一度振り向いた愛に
「すみません、この先の道が少し荒れていたので…」
そうごまかした。
「あ、そっか、ありがとう」
少し微笑んで愛は再び前を向いた。
(なんでしょうね…こんなに幸せなのに…
私は貴女の小さな変化の一つ一つに不安になってしまう…)
ふと、今朝ほども同じような表情を見たような気がする事を思い出す。
(あの髪留めは…お気に入りだったのでしょうか…)
しばらく進むと、一気に賑やかな市が見えてくる。
町中の人々が集まるのではと思わせる活気があった。
三成は近くの厩に馬を預ける。
「あれ?寄っていくの?」
「えぇ、少し気が変わりました。
欲しいものを思い出して」
そう言うと、先に馬を降りて愛に手を伸ばす。
その手に手を重ね、ゆっくりと地面に足をつくと同時に
三成は愛を優しく抱きしめた。
「わ…三成くん…ど、どうしたの」
焦ってもがく愛に三成はただ微笑んでいる。
『仲のよろしいご夫婦で羨ましい』
厩の主人が笑顔で話かける、
(夫婦!)
その声に反論しようと愛は更に腕の中から逃れようとするが
「ええ、大事なお姫様ですから」
さらっと返す三成に真っ赤になるしかなかった。