第24章 麦と真珠(政宗)
「ね、ねぇ、おろしてよ…一人で歩けるって…」
そのまま城を後にした政宗は、未だ愛を抱えていた。
「だーめだ。お前、俺との約束やぶっただろ」
そういうと、一切降ろす気配は見せずに
ずんずんと御殿へと向かって歩いていく。
「な、なによ、約束って…」
「今日の宴で笑うなって言ったろうが」
また拗ねたような顔でそう告げる。
「そ、そんなの無理に決まってるじゃない…」
「へぇ?そうやって俺がいない間も笑顔振りまいて
今日みたいに男を誘ってたのか?」
「…へ?」
何を言ってるのかわからない…という顔で政宗を見る。
「そうか、無自覚と来たか…」
政宗は先程までの取り巻きたちの話を思い出す。
城や御殿に残っていた部下たちは、そろいも揃って
政宗がいない間の愛の様子を話していた。
『政宗様がお立ちになってから、愛様はずっと私たちを気にかけて下さいました』
『ええ、毎日笑顔で、変わりはないですか?と案じて頂いて…』
『愛様が笑顔でお過ごしになられてるのに、
私たちが不安な顔をしていられない…と思いました』
『でも、毎日毎日、信長様を始め、特に三成様には、
秀吉様からの戦況をお聞きになられてましたね』
『一番不安だったのは愛様のはずですから…』
政宗はその様子が手に取るように想像できた。
それは、あの文を見てしまったからかもしれない。
毎日不安に押しつぶされそうな自分を偽って
政宗なら大丈夫と言い回る。
針子部屋だけではあきたらず、
見張り小屋にまで政宗の代わりに差し入れをしていた。
愛が涙を見せたのは、たったの一回のみ。
自分たちが無事に帰還するという報告をうけた時…
「お前、俺がいない間に、どれだけの男をたぶらかした?」
わざとそういう言い方をして困らせる。
「そ、そんな人聞きの悪い!
一人もたぶらかしてません!!」
「まぁいい、続きは部屋でたっぷり聞くとするか」
政宗は抱える腕に少し力を込める。
(この温もりを感じていいのは、俺だけだからな…)
愛に見えないように、ふと優しい笑みを漏らした。