第24章 麦と真珠(政宗)
『ほう?馬子にも衣装とはよく言ったもんだな』
広間に着くやいなや、光秀が愛を見つけてニヤニヤと声をかける。
「そ、そうですよ…衣装が良ければ多少は…」
やりすぎ感の否めない自分の姿にいたたまれなくなる。
『いいんじゃないか?政宗に一番の褒美はお前だろうからな』
くつくつと笑いながらも、愛を中へと招き入れる。
『ほら、愛こっちにこい』
先にそこにいたのは、秀吉だった。
「秀吉さん!おかえりなさい!怪我してないですよね?」
秀吉を見つけて小さく駆け寄る。
『こらこら、そんな格好で走るな』
相変わらずの小言に笑みが漏れる。
(本当に終わったんだ…)
当たり前だった日常がやっと戻ってきたような気がした。
『政宗様、ご到着です』
その声に皆の視線が入口へと注がれる。
「政宗!それ…」
愛はそのままポカンと口を開けて目を丸くする。
「どうした?あまりのかっこよさに開いた口が塞がらないか?」
政宗はそう言いながら、愛の側へと並んだ。
「その着物…」
「あぁ、これか?いいだろ?
俺の寝坊助姫が、俺のためだけに寝ずに縫った着物だ」
愛が政宗のために願掛けとして縫っていた着物。
それを纏って政宗は現れたのだ。
『へえ…これは…凄いな。また腕を上げたな』
秀吉がヨシヨシするように愛の頭を撫でる。
その仕草は、結った髪を崩さないように、とても優しいものだった。
「おっと…なに気安く触ってんだ…」
そう言うなり政宗は、顔をしかめながら秀吉の手首を掴む。
笑いをこらえながら、秀吉は手を引っ込める。
『丸く収まったようでなによりだ』
そのまま肩を揺らしながら自分の席へと座る。
愛は政宗と並んで腰をおろし、
顔を近づけてひそひそと話しをする。
「着てくれたんだね!ありがとう」
さっきまでの泣き顔はどこへやら、満面の笑みで笑いかける。
「お前なぁ…この宴中、笑うな」
なぜか拗ねたように言うと、政宗は愛の手をしっかりと繋いだ。
「…ん??」
キョトンとした顔で政宗を見つめながらも、
繋がれた政宗の手の体温をしっかりと握り返した。