第24章 麦と真珠(政宗)
「はぁ…何をやってんだ俺は…」
帰城の道中、休憩所にした野営で
秀吉から三成の報告書を見せられた。
今まで、律儀に安土の様子を淡々と報告してきたその文には
初めて愛の様子が綴られていた。
ーー隊の帰城を知った愛様は泣き崩れられ…ーー
その一文で全てがどうでもよくなった。
自分でも驚くほどだ。
何となく拒み続けてきた早駆けを、
その後はめいっぱいして帰ってきた。
一目見つけたら、全ての不安を取り除いてやる。
そう思って馬を走らせた。
秀吉の制止も振り切り、予定よりも早く到着した。
しかし、そこに愛の姿はなかった。
待ちきれない出迎えたちが、すでに城門に集まり始めていたにも関わらず。
「信長様まで居たんだぞ…」
どこか面白そうに笑いながら立っている信長を
城門に見つけた時には正直驚いた。
「よくやったな。身なりを整え戻ってこい」
そう言って、まるで御殿へ行けと言わんばかりだった。
いてもたってもいられず、先に自分の御殿へと急いだ。
だいぶ早く着いてしまったとはいえ、まさか寝ていたとは…
「全く…どんだけ神経図太いんだよ…」
口ではそう言いながらも、目の前で安堵の表情を見せて
涙を溢れさせた愛を見て、訳がわからなくなっていた。
ーー寂しかったら文をかけーー
その言葉には従わず、一切の連絡をよこさなかった。
「それどころか、人の恋文の伝達役にさせやがって…」
何度こちらから書いてやろうかと筆を取っては
どこかで癪な気もしてためらった。
沢山問い詰めたいことはある。
しかし、この後は信長の元で勝利の宴が開かれると聞かされた。
(その前に報告にいかないとな…)
早く着いた分の時間はあるが、さすがにそろそろ秀吉たちも到着するだろう。
先程の信長の様子も気になるところだ。
「そう言えば、遠出をしていたと言ってたな…」
ふと、信長に嫉妬をしている自分に気付き、自嘲する。
「俺もほとほと余裕がないな…」
大きく伸びをすると、風呂から上がって行った。