第24章 麦と真珠(政宗)
『愛さま、愛さま!』
騒々しい女中の声に起こされる。
ふと、自分が布団も敷かずに寝てしまっていた事に気づく。
「あ!!」
慌てて起き上がると同時に女中が部屋の襖を開ける。
『愛様っ!』
悲鳴に近い女中の声。
『お見えにならないと思ったら、
またこんなところでお休みになったんですか?!
政宗様だけお城にご到着なされたと…!』
「いけない!」
慌てて鏡を見る。
ボサボサの頭に乱れた着物。
「す、すぐに用意します!」
その声と同時に御殿が騒がしくなる。
『おかえりなさいませ!』
御殿に残った部下たちの声、女中たちの声。
「ちょ、ちょっと政宗足止めさせて…」
そう言いかけた時だった。
「おい、いい度胸だなお前…」
ズカズカと廊下を歩き、
一目散に愛の元を目指していた政宗が襖を大きく開ける。
こんなはずじゃなかったのに!
もう!なんで!私のばか!!!
綺麗におめかしをして、満面の笑みで迎えたい。
その気持ちと裏腹に、もう政宗はボロボロの自分の目の前だ。
「ま、政宗…お、おかえりなさい…」
感動の再会なんて微塵も無い。
そこにはあからさまに不機嫌な政宗の姿が眼に映る
「出迎えもなく寝坊とは随分じゃねぇか」
そう言うと女中を廊下に残し勢いよく襖をしめた。
「ご、ごめんなさいっっ」
狼狽える愛の元へきて
どかっとあぐらをかく。
「……」
「……」
(政宗が…帰ってきた…)
笑顔で…笑顔でおかえりを…
愛の気持ちとは裏腹にぽろぽろと涙が溢れる。
触れたくて仕方のなかった愛する人が目の前にいる。
「おか…えり…っ…なさいっ…」
必死で作る笑顔は、もはや笑顔とは呼べない。
「おま…え…」
色々な想いが入り混じっていた政宗は
目の前でぽろぽろと泣き崩れる愛に面食らう。
「文も書かず…出迎えもせず…なんで泣いてんだよ…」
言葉には棘がありながら、その手は愛を掻き抱いた。
優しく無い、獣のように噛みつかんとばかりに、ただ抱きしめる。
その身体が壊れてしまうのでは無いかと言うほど。
「…っ…くるし…」
やっとの思いで声を絞り出す愛に
ハッと我に返る。
「許してやらねぇぞ…そんなんじゃ…」