第24章 麦と真珠(政宗)
『政宗様、こちらお預かりしております』
安土城に出した使いの物が一通の書簡を持って政宗を訪れる。
「ん?書簡か?これは…」
それは見間違うことはありえない、綺麗な文字。
(やっと書いたか…)
政宗の顔は自然に緩む。
『ん?なんだお前が戦場でそんな顔するの珍しいな』
隣にいた秀吉が覗き込む。
『愛か…』
呆れたような声でその書簡の文字を見た。
「あいつやっと文を書く気になったか」
そう言うと、丁寧に広げていく。
しかし…
「なんだよ…これ…」
そこには、政宗宛に書かれたように見せかけた別の文が包まれていた。
ーこれを日吉くんに渡して下さいー
愛からはたった一筆そうかかれているだけだった。
「なんで日吉…」
よく見ればその文は愛とは別人の字で
日吉様と書かれていた。
一瞬中を見てやろうかと思った。
けれど、それが小夏からのものである事に気付き、
開くのをやめた。
先程の表情から一転して
不貞腐れたような顔をしている政宗に
『どうしたんだ?愛からじゃないのか?』
秀吉が不思議そうに訊く。
そんな秀吉を無視するように、
「おい、日吉はいるか」
と、ぶっきらぼうに日吉を呼ぶ。
『はっ、お呼びでしょうか』
すぐさま政宗の前に片膝をつき日吉が現れる。
「お前に文だ」
それだけを言うと、小夏からの文を渡す。
『え?わたくしにですか?』
面食らったように日吉は文を受け取り、
その文をまじまじと見つめる。
最後に小夏の名前を認めると、
今度は日吉の顔がパッと明るくなる。
『なんだ、政宗宛じゃなかったのか』
なんとなく察した秀吉が、政宗を慰めるように肩を叩く。
『あ、ありがとうございます!』
日吉は受け取ると、早々にその場を離れた。
それからと言うもの、城に従者を送るたびに同じことが繰り返される。
(どうなってんだよ…)
その度に政宗は不機嫌になる。
いつも愛からは、政宗様と書かれた宛名と
日吉に渡すようにと書かれた一筆のみ。
(あいつ…具合悪かったりしてねぇよな…?)
あまりにも自分のことを知らせない愛に不安が募る。
「おい、秀吉、お前三成と連絡とってるか?」
しびれを切らしてそう秀吉に尋ねる。