第24章 麦と真珠(政宗)
(不安だよ…今すぐ逢いに行きたいよ…)
愛は女中に拭くものを頼み、
廊下に佇んでいた。
(でも、私が不安になっても政宗のためにはならない。
それだけじゃない…待ってるみんなを不安にさせちゃうから…)
「慣れないといけないんだよ…一緒にいるためには…」
誰に言うでもないその言葉は
自分の耳に返ってくる。
そして政宗がいない現実を改めて突きつけられる。
『おまたせしました』
布を持ってきた女中の声で我にかえる。
「あ…ありがとうございます」
笑顔でお礼を言う。
(そうだ…こなっちゃんに…)
「お待たせしました」
襖を開けながら笑顔で布を持ってくる。
『あ…愛様、申し訳ございませんでしたっ…』
小夏が深々と、畳に額がつくほど頭を下げる。
「やだなぁ、顔上げて?大丈夫だよ。
こなっちゃんの気持ちはみんなわかってるよ。
さ、ほら拭いて?」
微笑みながら布を差し出す。
『はい…』
泣きながらお茶を拭く小夏に愛は話しかける。
「こなっちゃん、日吉くんに文を書いたら?」
『え?文…ですか?』
「うん、こなっちゃん書けるでしょ?
多分もうすぐ戦地から使いが来るから渡してもらうように頼んであげる」
『でも…そんな私用を…』
「大丈夫。まかせて!」
そう言うと優しく肩を摩った。
「少しはきっと紛れるから。
もしかしたらお返事くるかもしれないしさ?」
にこにこと笑う愛に小夏は
『愛様も書かれるんですか?』
と訊いた。
「私は…」
(書かないっていったら書きづらいか…)
「そうだね、私も書こうかな」
そう言って笑顔を見せる。
「お団子濡れちゃったね…こっち食べて?」
自分の皿と小夏の皿を交換する。
『いえ…っ、それはっ…』
「ふふ、美味しい方食べてね」
(ごめんね、私は書かないけど…
こなっちゃんの想いが届きますように…)